10 月号ピックアップ記事 /対談
世界の頂点をいかに掴んだか 栗山英樹(侍ジャパントップチーム前監督) 横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
今年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)で、3大会ぶり3度目となる世界一に輝いた侍ジャパン。
その快挙は日本中に歓喜の渦を巻き起こし、勇気と感動を与えてくれた。
チームを率いた名将・栗山英樹監督が予てお会いしたかったという横田南嶺氏と共に、悲願達成までの舞台裏を振り返りつつ、その最大の勝因、今大会を通して得た学び、さらにはいかなる出逢いによって自己を磨いてきたか、指導者としての哲学を縦横に語り合っていただいた。
野球と禅――異色の組み合わせながら、そこに通底する人間学談義に興味は尽きない。
野球は運の要素も強いんです。運を味方につけるには結局、生きざましかないと思います。
いまの努力の仕方で神様や天に認められるか、応援してもらえるか。
周囲のために、できることはすべてやり尽くさないと、勝利の女神は振り向いてくれません
栗山英樹
侍ジャパントップチーム前監督
〈栗山〉
きょうはお会いできることをすごく楽しみにしていました。
〈横田〉
暑い中、円覚寺までご足労いただき恐縮です。やはりテレビで見た人に会うのは感動ですね。
〈栗山〉
とんでもないです。僕のほうこそ、管長のことは『致知』の誌面や円覚寺のYouTubeなどでいつも見ています。
〈横田〉
それにしても、世界の栗山監督とただのお坊さんですから、究極の「提灯に釣鐘」対談だなぁと(笑)。きょうは生涯の思い出といいますか、致知出版社とのご縁がなければ到底出逢うことはなかっただろうと思います。
私は野球に関しては全くの素人なんですけど、対談に備えて栗山監督の本を読んだりWBCの試合映像を見たり、いろいろ勉強しましたら学ぶことが実に多い。
〈栗山〉
余計な時間を取らせてしまって、本当にすみません。致知出版社から刊行されている管長の本はほとんど読ませていただいて、ぜひ直接お会いして質問したいことがあったものですから、ご無理を聞き入れてくださって、ありがとうございます。
師匠のお傍で長くお仕えしていると、裏の裏まで性格が分かってしまう。
そうすると、師匠の批判をし出すような場合がよくあるんですが、こういう人はもう伸びません。
是と非を見分けながら、非をひっくるめて受け容れた上で、長所を見ていくことが大切です
横田南嶺
臨済宗円覚寺派管長
〈横田〉
何をおっしゃいますやら。まず忘れないうちにご報告したいことがあるんです。今年の5月に東京の学士会館で「一休フォーラム」が行われましてね。一休禅師研究の第一人者の方に講演をしてもらったのですが、その方が最後にこうおっしゃいました。「皆さん、憧れるのをやめましょう。一休に憧れているようでは、一休は超えられません」と。
驚きましたよ。大谷翔平選手の言葉が、野球と全く縁もゆかりもないような禅の世界にも影響を与えている。これはすごいことだなと思いました。
〈栗山〉
いや、そうですか。翔平に伝えさせていただきます(笑)。
〈横田〉
「憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては超えられないので、僕らはきょうトップになるために来たので。きょう一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」。これは歴史に残るくらいの名言じゃないかと思いますよ。
〈栗山〉
実は、試合前の円陣で誰が話すかというのは予め決まっていなくて、コーチが急に指名するんです。その中でパッと言ったので、僕らも選手たちも、すごくインパクトがありました。正直、アメリカとの決勝戦の直前練習の時に、そういう空気があったんですよ。誰もが知っているスター選手たちを目の前に「写真撮って」とか。
〈横田〉
その空気を察知して、ああいう発言をされたわけですか。
栗山 翔平はどうしても勝ちたがっていましたね。その思いがあの言葉に表れていましたし、チームに与えた影響も大きかったです……(続きは本誌にて)
プロフィール
栗山英樹
くりやま・ひでき――昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平成元年ゴールデン・グラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。16年白鷗大学助教授に就任。24年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、同年チームをリーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。令和3年侍ジャパントップチーム監督に就任。5年3月第5回WBC優勝、3大会ぶり3度目の世界一に導く。同年5月監督退任。著書に『栗山ノート』『栗山ノート2』(共に光文社)など多数。
横田南嶺
よこた・なんれい――昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』(五木寛之氏との共著)『十牛図に学ぶ』『臨済録に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。
編集後記
巻頭対談を飾るのは、侍ジャパントップチーム前監督の栗山英樹さんと臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺さん。共に『致知』の愛読者であり、初対面ながらもすぐに意気投合、お互いに学びを求めて質問し合う姿が印象的でした。2時間を超える白熱対談の後は、管長自ら境内を案内し、坐禅の手ほどきも。栗山さんは感動を以って受け止めていました。お二人の出逢いを創出できたことを大変嬉しく思います。
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