人間学とは〜人間力を高めるために〜 四書五経に学ぶ人間学

「四書五経(ししょごきょう)」って何?

古来、私たち日本人の祖先は東洋古典を読むことによって、自らを磨き、高めてきました。
一言で東洋古典といっても膨大な数に及びますが、
その中で特に代表的な九つの経典を総称して「四書五経」といいます。
「四書」とは『論語』『大学』『中庸』『孟子』の四つの書物です。
「五経」とは『易経』『詩経』『書経』『礼記』『春秋』の五つを指します。
ここでは、より一般的な「四書」についてその概要をご紹介したいと思います。

孔子から続く「四書」の学統

 四書の中で最も古く、またポピュラーな書物といえば『論語』です。世界三大聖人の一人である孔子の言行を弟子たちが編纂したもので、合わせて二十篇で構成されています。日本に伝わったのは三世紀末といいますから、日本最古の『古事記』より四百年前のことです。以来、『論語』の言葉や教えは長い年月の中で日本人に溶け込み、その精神文化に大きく影響したことはいうまでもありません。

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四書の中で最も古く、またポピュラーな書物といえば『論語』です。世界三大聖人の一人である孔子の言行を弟子たちが編纂したもので、合わせて二十篇で構成されています。日本に伝わったのは三世紀末といいますから、日本最古の『古事記』より四百年前のことです。以来、『論語』の言葉や教えは長い年月の中で日本人に溶け込み、その精神文化に大きく影響したことはいうまでもありません。

 その孔子の晩年の弟子に曾子という人がいました。曾子は決して頭脳明晰ではありませんでしたが、素直で実行力に富んだ青年で、孔子の死後、師の教えを広く伝えました。曾子が著したのが『大学』です。そこには人間誰もが本来持ち合わせている「明徳」を明らかにするための道や、自分を修め人を治める道が説かれています。

 二宮金次郎の銅像をご覧になった方も多いと思いますが、幼い金次郎が薪を背負いながら読んでいる書物が『大学』。ついでながら、弊社で発刊している月刊『致知』の名称も『大学』の「格物致知」という言葉に由来しています。

『中庸』は孔子の孫・子思の手によってまとめられたものです。子思は孔子の孫であると同時に曾子の弟子でもありました。そこには天から命を授かった私たちがどのように道を踏み行えばよいかという知恵が示されています。人生の順逆に処する心構えや至誠を貫く大切さなどを説いた実に含蓄に富んだ書物といえるでしょう。

 子思の教えの流れは、やがて『孟子』という一冊の書物となります。これは孟子と弟子たちの言行録で、性善説に基づいた人の道や仁義に基づく王道政治の大切さが説かれています。孟子の気概溢れる数々の言葉は長い時を経て、幕末の志士・吉田松陰の思想などにも大きな影響を与えました。

 このように見てくると、孔子、曾子、子思、孟子と続く学統と「四書」とは深い関わりがあることが分かります。

時代を超えて現代に息づく教え

「四書五経」は六世紀の随の時代から科挙試験の中軸となり、古典を学んだ優秀なエリートたちが官吏として国を治めました。日本でも江戸時代、寺子屋を通じて広く庶民に古典教育が施され、「四書五経」は人格の根幹を形成する上での大きな働きをしました。

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「四書五経」は六世紀の随の時代から科挙試験の中軸となり、古典を学んだ優秀なエリートたちが官吏として国を治めました。日本でも江戸時代、寺子屋を通じて広く庶民に古典教育が施され、「四書五経」は人格の根幹を形成する上での大きな働きをしました。

 歴史に名を刻んだ偉人にも大きな精神的影響を与えました。吉田松陰は幼少期から「四書五経」に習熟し、十一歳で藩主に兵法を教えるまでの学識を培っています。「日本の資本主義の父」といわれる渋沢栄一もやはり幼くして学んだ「四書五経」をベースに、「論語と算盤」という経営哲学を打ち出しています。

 そして『致知』に登場される方々もまた、人生や仕事の原理原則ともいえる古典の教えを血肉とすることで、自らの道を究められているのです。 数千年という悠久の時間を経て、なおいささかも色あせることなく、二十一世紀に生きる我われの琴線に触れる古典の教え。それは現代人が人間学を高める上で欠かすことのできない大切な指針といえるかもしれません。

 ※名言集の解説は『中国古典の名言録』(東洋経済新報社)、『中国名言名句の辞典』(小学館)、『四書五経一日一言』(致知出版社)を中心とした弊社刊行書籍によります。

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「四書五経」の名言集

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