四書の中で最も古く、またポピュラーな書物といえば『論語』です。世界三大聖人の一人である孔子の言行を弟子たちが編纂したもので、合わせて二十篇で構成されています。日本に伝わったのは三世紀末といいますから、日本最古の『古事記』より四百年前のことです。以来、『論語』の言葉や教えは長い年月の中で日本人に溶け込み、その精神文化に大きく影響したことはいうまでもありません。
その孔子の晩年の弟子に曾子という人がいました。曾子は決して頭脳明晰ではありませんでしたが、素直で実行力に富んだ青年で、孔子の死後、師の教えを広く伝えました。曾子が著したのが『大学』です。そこには人間誰もが本来持ち合わせている「明徳」を明らかにするための道や、自分を修め人を治める道が説かれています。
二宮金次郎の銅像をご覧になった方も多いと思いますが、幼い金次郎が薪を背負いながら読んでいる書物が『大学』。ついでながら、弊社で発刊している月刊『致知』の名称も『大学』の「格物致知」という言葉に由来しています。
『中庸』は孔子の孫・子思の手によってまとめられたものです。子思は孔子の孫であると同時に曾子の弟子でもありました。そこには天から命を授かった私たちがどのように道を踏み行えばよいかという知恵が示されています。人生の順逆に処する心構えや至誠を貫く大切さなどを説いた実に含蓄に富んだ書物といえるでしょう。
子思の教えの流れは、やがて『孟子』という一冊の書物となります。これは孟子と弟子たちの言行録で、性善説に基づいた人の道や仁義に基づく王道政治の大切さが説かれています。孟子の気概溢れる数々の言葉は長い時を経て、幕末の志士・吉田松陰の思想などにも大きな影響を与えました。
このように見てくると、孔子、曾子、子思、孟子と続く学統と「四書」とは深い関わりがあることが分かります。