我が芸道に終わりなし ~人間国宝・竹本葵太夫氏に聞く~ 竹本葵太夫(歌舞伎義太夫 太夫/人間国宝)

令和元年、58歳の若さで、歌舞伎義太夫としては40年ぶり二人目となる重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された竹本葵太夫氏。伊豆大島の一般家庭に生まれ、国立劇場の研修生として伝統芸能の世界に飛び込んだ氏は、厳しい芸の一道をいかに究めてきたのか。その一途一心の歩みから、人生・仕事を発展させていく極意を学ぶ。
【三味線方の鶴澤宏太郎氏と俳優の呼吸を見計らう葵太夫氏(左)】

人が見ていないところでも神様に恥じないよう素直、正直に生きる。その姿勢が目には見えない出逢いを導き、また新たな出逢いを呼んできてくれるのではないでしょうか

竹本葵太夫
歌舞伎義太夫 太夫/人間国宝

――葵太夫さんは、歌舞伎義太夫の道を45年以上にわたって一途一心に歩んで来られました。

〈葵太夫〉 
義太夫節は、江戸時代中期に竹本義太夫という人が創出した邦楽で、その流れはいま人形浄瑠璃文楽の劇音楽として伝わっております。一方、人形浄瑠璃文楽の演目を歌舞伎の世界に取り入れる際に生まれたのが歌舞伎義太夫(歌舞伎音楽竹本)なんです。

人形浄瑠璃文楽の人形相手の語り方と、生身の歌舞伎俳優相手の語り方では自ずと違ってきますから、歌舞伎を専門とする義太夫節の演奏者が現れました。具体的にはどう違うかというと、人形浄瑠璃文楽では、物語のドラマを語り聞かせることに主眼が置かれていますが、歌舞伎の場合は、あくまでも俳優さんの芸の魅力を引き立たせるために語ります。

ですから、三味線弾きの方と暗黙の呼吸を合わせ、「きょうは速いな」「きょうはゆっくりだな」というように、その俳優さんが演技しやすいよう、その都度対応していくことが重要になります。俳優主体の歌舞伎義太夫は、人形浄瑠璃文楽の本格的な義太夫節と比べて演奏の厳しさが少し緩いといいますか、一段下に見られるんですね。しかし、生身の俳優さんに制約された中でいかに自分の芸を出していくか、そこに苦労があり面白みがある。そう思っています。

プロフィール

竹本葵太夫

たけもと・あおいだゆう――昭和35年伊豆大島(東京都)生まれ。51年女流義太夫の竹本越道に入門。55年国立劇場第三期竹本研修修了。以後、竹本扇太夫、竹本藤太夫、豊澤瑩緑、鶴澤英治、豊澤重松、文楽の竹本源太夫らに師事しながら、数多くの舞台を経験し、現在に至る。第37回芸術選奨文部大臣新人賞、第37回伝統文化ポーラ賞優秀賞、日本芸術院賞など受賞多数。令和元年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。


編集後記

一般家庭から歌舞伎義太夫の世界に入り、並々ならぬ向上心を持って鍛錬を重ね、人間国宝にまでなった竹本葵太夫さん。とても厳しい方なのかと思いきや、驚くほど謙虚で丁寧な語り口が印象的でした。人間国宝になったいまなお「まだまだ」という思いで、謙虚素直に努力し続ける姿勢に、成長していく極意を教えられます。

2023年9月1日 発行/ 10 月号

特集 出逢いの人間学

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