10 月号ピックアップ記事 /鼎談
かくて掃除道は始まった~三十年、歴史をつくって、なお歩まん~ 利 哲雄(日本を美しくする会会長) 田中義人(日本を美しくする会顧問) 縄田良作(日本を美しくする会広報部)
「十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年にして歴史なる」。「日本を美しくする会」設立者でイエローハット創業者でもある鍵山秀三郎氏が好んで口にする中国の格言である。その言葉の如く1993年にスタートした「日本を美しくする会」は今年30周年の節目を迎えた。鍵山氏に長年薫陶を受け、いまも日々掃除の実践に当たる利哲雄、田中義人、縄田良作の三氏に、出逢いによって育まれていった同会の歩みや、鍵山氏からの学びなどを語り合っていただいた。
(写真左から縄田氏、利氏、田中氏)
掃除を通してどのように汚れを落とすかという工夫が、そのまま仕事上の気づきに繋がりました。例えば、売り上げが立たなくて淋しい思いをしている社員に温かい言葉をかけるようになりました。
そのことで社員の表情も少しずつ柔らかくなっていったんです
利 哲雄
日本を美しくする会会長
〈本誌〉
1993年に発足した日本を美しくする会(設立当初は掃除に学ぶ会)が今年で30年を迎えます。早くから掃除の実践に努め、設立者である鍵山秀三郎相談役(イエローハット創業者)に親しく薫陶を受けられたお三方の感慨も一入なのではないでしょうか。
〈利〉
私は2017年より田中さんの後を継いで会長になりましたが、ここまで続けてこられたことを何よりも嬉しく思います。30年の節目ということでまず思い浮かべるのが鍵山相談役に教えていただいた「十年偉大なり、二十年畏るべし、三十年にして歴史なる」という言葉です。私も経営者ですからよく分かりますが、企業でも30年存続させるのは大変なわけで、ああ、これで当会も一つの歴史になるのかなという思いを強くしています。
立ち上げから携わっておられる田中さんはよくご存じのように、もともと経営者の集まりだったものが、学校など一般に広がり、現在は全国に98支部を数えるまでになりました。この30年を節目として、これからはお若い方に掃除道を浸透させていくことが我われの務めだと思っているんです。
鍵山相談役は戦後、経済的に豊かになってきた日本で、かつては考えられなかった凶悪犯罪、特に親族間の犯罪が多発している状況を見ていて社会規範が崩れてきたことを大変憂慮され、掃除を通して心の荒みをなくし、社会規範を取り戻していきたいという思いを抱かれていました。
その思いに私たちも共感したわけです
田中義人
日本を美しくする会顧問
〈田中〉
私も利さんと全く同じ思いなのですが、世間では「失われた三十年」とよく言われます。しかし、私たちはありがたいことに「充実した三十年」を歩むことができました。それはやはり鍵山相談役と出逢えたことによって、物の豊かさから心の豊かさへと価値観を大きく転換できたからだと思っています。
三十年の記念にこのほど、288名の仲間の感想をまとめた『掃除道』が発刊されましたが、これを読むとまさにそのことを強く感じます。皆さん、相談役と出逢い、そして掃除を通して自身の生き方がいかに大きく変わったかを思いを込めて綴られている。また、そのことによって会社が学校が地域が蘇っていった事例を読み返す度に、胸が熱くなります。ある意味、私たちは大切な精神文化を培ってきたと言ってもよいのではないでしょうか。
中国での講演で、ある学生が鍵山相談役に「私たちは大学を出て大きなことをやりたいと思っているのに、どうしてゴミを拾うのですか」と質問しました。
すると相談役は「あなたは多くの人が待っているバス停でゴミを拾うことができますか。私は拾うことができます。私にはとても大きな志があり、小さな実践を積み重ねることが社会をよくすることになると思っています」と答えられました
縄田良作
日本を美しくする会広報部
〈縄田〉
私はこの本を編集するに当たり、30年の歩みを振り返ると共に、それを次の世代にどう伝えるかを強く意識しました。ある読者から「本書の発刊は掃除道第二章の始まりですね」という感想をいただいたのですが、この本はいわばマネジメントでいうPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のサイクルのCheckに当たるものだと考えています。
歴史をきちんと振り返り、次のアクション、プランへと継続的改善に繋げる。『論語』が残っていなければ、孔子の名は現代に残っていないだろうと読んだことがあります。
『掃除道』がその役割を担うとしたら嬉しいですね。
プロフィール
利 哲雄
とし・てつお――昭和30年鹿児島県生まれ。53年、兄が起業した日本企画入社。平成20年より社長。平成5年鍵山秀三郎氏との出逢いで掃除に目覚め、駅前早朝清掃などに取り組む。29年「日本を美しくする会」会長に就任。
田中義人
たなか・よしひと――昭和22年岐阜県生まれ。44年日本大学卒業。プリント基板製造の東海神栄電子工業を創業。平成3年鍵山秀三郎氏との出逢いによって掃除を開始。5年鍵山氏と共に「掃除に学ぶ会」を立ち上げる。「日本を美しくする会」会長として国内外への掃除道の普及に尽力。現在は顧問。
縄田良作
なわた・りょうさく――昭和25年山口県生まれ。京都大学大学院修士課程卒業。日立金属入社。国内外での勤務の傍ら「日本を美しくする会」のメンバーとして地域の美化活動に努める。現在は同会広報部で機関誌『清風掃々』の編集に携わる。
編集後記
鍵山秀三郎さんが立ち上げた「日本を美しくする会」が今年30周年を迎えます。日々掃除の実践に努める利哲雄さん、田中義人さん、縄田良作さんに、鍵山さんとの思い出を交えながら30年の歩みを回顧していただきました。
掃除によって荒れた学校・企業・地域が蘇った事例に、「凡事徹底」という言葉の重みを感じずにはいられません。
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