10 月号ピックアップ記事 /対談
我が心の師、稲盛和夫が教えてくれたこと 石田昭夫(日本産業推進機構副会長) 大田嘉仁(日本航空元会長補佐専務執行役員)
京セラやKDDIを一代で世界的企業に育て上げたのみならず、不可能といわれた日本航空(JAL)の再建を3年弱で成し遂げた稀代の名経営者、稲盛和夫氏。惜しくも2022年8月に90歳で亡くなられたが、その教えはますます輝きを放ち、私たちの行く道を照らしてくれている。それぞれ50年と30年、稲盛氏の薫陶を受けてきた石田昭夫氏と大田嘉仁氏が語り合う、実体験から掴んだ稲盛哲学の神髄、人生・仕事を発展させる極意――。
稲盛さんがいつもおっしゃっていたのは、「何のためにこの仕事をするのか」という意義を明確にすることの大切さです。やはり人間は、「何のために」が明確にならなければ、その仕事に興味を持って主体的に取り組むことはできません
石田昭夫
日本産業推進機構副会長
〈大田〉
いま現役の経営者で稲盛さんと一番お付き合いの長い方は、おそらく石田さんだろうと思うんです。ですから、きょうは稲盛さんについて、貴重なお話が伺えることを楽しみにしておりました。
〈石田〉
稲盛さんとのお付き合いは50年以上になりますが、稲盛さんについて語るというのは本当に難しいですね。なにせ、いろんなことがあり過ぎて……。
〈大田〉
私が京セラに入社したのは、創業19年目の1978年、稲盛さんが46歳の時です。1991年に稲盛さんの特命秘書に任命されたのですが、もうその頃から石田さんのお名前はよくお聞きしていました。実際にご一緒する機会も何度かありましたよね。
〈石田〉
ええ、稲盛さんに海外投資家をご紹介する席などで、大田さんともお会いしていましたね。
仕事の意義を経営者がどれだけ社員に熱を込めて伝え続けられるかが、単純なことのようですが、社員の熱意を高め、経営をよくしていくためには、不可欠になると思うんですね
大田嘉仁
日本航空元会長補佐専務執行役員
〈大田〉
当時、石田さんはメリルリンチ日本証券の副社長のお立場だったかと思います。稲盛さんが石田さんに海外事業に関するアドバイスをいろいろ聞いているということで、すごい人なんだなと。
その後、盛和塾などでよくお会いすることがあったんですけれども、初めて仕事でお付き合いがあったのは、2010年に経営破綻した日本航空(JAL)を稲盛さんが再建する時でしたね。その時、私は80歳近くと高齢になっていた稲盛さんのサポート役を務めさせていただきましたが、石田さんには航空機の売却などの面でご支援をいただきました。
〈石田〉
JALの再建ではいろんなことがありましたけれども、一つ印象に残っているのは、破綻したJALが、それまで加盟していたアメリカン航空主導の航空連合「ワンワールド」から、資金を援助してくれるというだけでデルタ航空主導の「スカイチーム」に移ろうとしていたのを、稲盛さんがやめさせたことですね。
単にお金のためだけにワンワールドと共に積み立てたマイレージポイントをなくす、JALの永年のパトロンを裏切る、鞍替えするとは何事かと。破綻して大変な状況でも恩義を大切にする稲盛さんの姿勢を見て、本当に素晴らしいと思いました。
〈大田〉
損得ではなくて、「人間として何が正しいか」を基準に稲盛さんは判断されたわけです。再建に来てすぐにそれを実践しましたので、稲盛さんは哲学を持つ本物の経営者だと、JALの方々に相当なインパクトを与えた。これが経営再建のきっかけになった面もあると思います。
プロフィール
石田昭夫
いしだ・あきお――昭和17年東京都生まれ。ウッドベリー大学国際経営学部卒。平成13年メリルリンチ日本証券株式会社副会長。18年TPGキャピタル株式会社日本副会長。平成24年株式会社日本産業推進機構を設立し、副会長に就任。平成4年7月に稲盛和夫氏に学ぶ「盛和塾」に入塾、28年4月から30年3月まで盛和塾東京の筆頭代表世話人を務める。
大田嘉仁
おおた・よしひと――昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空会長補佐専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任。現職は、MTG取締役会長、学校法人立命館評議員、鴻池運輸取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書に『JALの奇跡』(致知出版社)、『稲盛和夫 明日からすぐ役立つ15の言葉』(三笠書房)などがある。
編集後記
名経営者・稲盛和夫さんが亡くなって早一年。その教えを伝承する日本産業推進機構副会長・石田昭夫さんと日本航空元会長補佐専務執行役員・大田嘉仁さんのお二人の対談では、稲盛さんの知られざる素顔や皆を幸せに導く稲盛経営哲学の神髄について語られました。出逢いを生かし、人生・仕事を繫栄させる要諦が凝縮されています。
特集
ピックアップ記事
-
対談
世界の頂点をいかに掴んだか
栗山英樹(侍ジャパントップチーム前監督)
横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
-
対談
よき本、よき人との出逢いが人生の扉をひらく
あまんきみこ(児童文学作家)
中川李枝子(児童文学作家)
-
インタビュー
諦めなければ道は開ける
浅川智恵子(日本科学未来館館長/IBMフェロー)
-
エッセイ
歴代天皇の御製に込められた祈り
小柳志乃夫(国民文化研究会理事長)
-
インタビュー
我が芸道に終わりなし ~人間国宝・竹本葵太夫氏に聞く~
竹本葵太夫(歌舞伎義太夫 太夫/人間国宝)
-
インタビュー
人はどこからでもやり直せる
栗原 豊(特定非営利活動法人 潮騒ジョブトレーニングセンター理事長)
-
インタビュー
世界のDRUM TAOへ ~三十年の挑戦を支えた運命の出逢い~
藤高郁夫 (タオ・エンターテイメント社長)
-
鼎談
かくて掃除道は始まった~三十年、歴史をつくって、なお歩まん~
利 哲雄(日本を美しくする会会長)
田中義人(日本を美しくする会顧問)
縄田良作(日本を美しくする会広報部)
-
対談
我が心の師、稲盛和夫が教えてくれたこと
石田昭夫(日本産業推進機構副会長)
大田嘉仁(日本航空元会長補佐専務執行役員)
好評連載
ピックアップ連載
-
学内木鶏会で我が部はこう変わった
107年ぶり夏の甲子園優勝!! 慶應義塾高校野球部の飛躍を支えた「人間学」の学び
森林貴彦(慶應義塾高等学校野球部監督)
-
生涯現役
流水濁らず 忙人老いず
別所弘一(はばたけ千早理事長)
-
私の座右銘
無私の志
柴橋正直(岐阜市長)
-
二十代をどう生きるか
自分の仕事をとことん深掘りし様々な経験を積め
野本弘文(東急会長)
-
第一線で活躍する女性
人は誰かの支えがあれば必ずやり直すことができる
廣瀬伸恵(大伸ワークサポート社長)
-
意見・判断
童謡と唱歌が日本の明るい未来を拓く
海沼 実(日本童謡学会理事長)
-
致知随想
写真の価値は未来のいつかにある
浅田政志(写真家)
月刊誌『致知』のバックナンバー
バックナンバーについて
バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます
過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。
定期購読のお申込み
『致知』は書店ではお求めになれません。
電話でのお申込み
03-3796-2111 (代表)
受付時間 : 9:00~17:30(平日)
お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード