「利他」の灯をかかげて 五木寛之(作家)

「私はね、やっぱり利他だと思うんですよ」
と、少年のように目を輝かせて語った稲盛さんの表情を今も忘れることができない。

五木寛之
作家

私が稲盛さんとはじめてお目にかかったのも、雑誌『致知』がもうけてくださった対談の席でのことだった。

同年生れとはいえ、経済界の雄であり、また実業を志ざす人々の思想的リーダーとして、稲盛和夫さんのお名前はつとに耳にしていた。

対談の席にのぞんだ私は、さすがに相当、緊張していたのだが、挨拶をかわした瞬間、たちまちそのこわばりは溶け去ったのだった。

温顔、といえば月並みな形容になる。そこにいるのは経営者のカリスマでもなく、日本国内のみならず、中国にも圧倒的な稲盛信徒をもつ国際的実業家でもない一介のオッさんという印象だったのだ。

こういう書き方をすると、物書きの思いあがりのようにとられかねないだろう。しかし、藤尾秀昭編集長(当時)の巧みな舵取りを待つまでもなく、私たちは古い友人のように気楽に談笑することができたのだ。

プロフィール

五木寛之

いつき・ひろゆき―昭和7年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮に渡り、22年に引き揚げる。早稲田大学露文科中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、41年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、42年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、51年『青春の門・筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。14年菊池寛賞を受賞。22年に刊行された『親鸞』で毎日出版文化賞を受賞。稲盛和夫氏との共著に『何のために生きるのか』(致知出版社)がある。


2022年11月1日 発行/ 12 月号

特集 追悼 稲盛和夫

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