12 月号ピックアップ記事 /対談
稲盛さんに教わった人生で大切なこと 岡田武史(FC今治オーナー) 栗山英樹(侍ジャパントップチーム監督)
稲盛和夫氏の生き方・哲学を学んでいるのはビジネスパーソンだけに留まらない。スポーツ界もその一つである。稲盛氏の謦咳に接した岡田武史氏と、著作を通じて学ばれた栗山英樹氏のお二人に、稲盛哲学に学んだことを語り合っていただいた。その対話には、いま我われが学ぶべき、また後世に語り継ぐべき稲盛哲学の要諦が詰まっている。
やっぱり誰にも負けない努力やど真剣に生きる姿勢が物事を成功に導く基本ですよ
岡田武史
FC今治オーナー
〈岡田〉
稲盛さんは「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」という言葉をよくおっしゃいます。直接言われたわけではないですが、確かコンサドーレの後に監督になった横浜F・マリノス時代に、来年のメンバーをどうするか考えていた頃にこの言葉を知りました。
何人かの選手に対して、「いいやつだしチームに残してあげたいけれど、マリノスに残しても試合に出られないからチャンスがなくなる。逆に、他のチームに移籍して、第一線で活躍したほうがこの選手にとっていいだろう」と考えることがありました。本人はマリノスでやりたいと言っていたので悩みましたが、その選手の将来を考えチームから出てもらいました。
その決断をした後に、稲盛さんの「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」の言葉を知り、ああ、この決断で間違っていなかったのだとホッとしました。
チームに残してあげるという選択肢は「小善」に過ぎない。僕はそれを「大悪」とまでは思っていませんでしたが、稲盛さんは本当に相手のことを思うなら、獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすが如く、厳しく当たらなければいけないとおっしゃる。
真剣勝負の場では選手だけでなく、監督自身も生き方や努力の仕方、人間性というのが如実に問われるのだと痛感しています
栗山英樹
侍ジャパントップチーム監督
〈栗山〉
僕も稲盛さんの言葉をどれか一つ挙げろといわれたら、この言葉だと思っていました。ファイターズの監督をしていた最後の数年はキャンプ中もシーズン中もずっと、黒板にこの言葉を書いていましたし、昨年、10年間務めた監督を辞めた日も、ノートにこの言葉を真っ先に書き込んでいます。
さっきのスランプの話もよく分かって、可哀相だから手を出したくなるけど、それは小善で結局その選手を潰すことになる。本当に選手のことを思うなら、自分で考え行動できる人間に育てなければならないんです。
若い選手なら一軍にいて使わずベンチに座らせるよりも、2軍に落としたほうがいいのは分かっている。でも、それが本当に誰のためなのか。私利私欲を抜きにして考えるのがすごく難しいですね。
例えば僕は清宮幸太郎を高校卒業後からずっと1軍で使ってきましたが、昨年1年間はずっと2軍のままにしました。清宮はもっと自分で考えて成長できる選手だと思ったので、我慢しながらあえて厳しい環境に置いたんです。それが今後どう活きるか分かりませんが、僕はいまだに「監督として本当に自分は選手のためになれているのか」と自問自答しています。
プロフィール
岡田武史
おかだ・たけし――昭和31年大阪府生まれ。55年早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電工入社。平成2年現役引退。9年監督として日本初のFIFAW杯本選出場を果たす。11年コンサドーレ札幌監督、15年横浜F・マリノス監督に就任。19年日本サッカー協会特任理事、同年9年ぶりに日本代表監督に就任。22年W杯南アフリカ大会でグループリーグを勝ち抜きベスト16に導く。26年FC今治オーナーに就任。著書に『岡田メソッド』(英治出版)、共著に『勝負哲学』(サンマーク出版)など。
栗山英樹
くりやま・ひでき――昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平成元年ゴールデン・グラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。16年白鷗大学助教授に就任。24年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、同年チームをリーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。令和3年退任し、侍ジャパントップチーム監督に就任。著書に『栗山魂』(河出文庫)『育てる力』(宝島社)など。
編集後記
サッカー界で活躍する岡田武史さんは稲盛さんと親交があり、監督時代に盛和塾へ入塾するほどの熱の入れよう。野球界で活躍する栗山英樹さんは稲盛さんに私淑し、著作を通してその哲学を学んできました。そんなお二人の稲盛さん談義から、真に人を導く者のあり方が見えてきます。
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