後世に伝えたい 稲盛さんの創業者魂 永守重信(日本電産会長)

共に京都の地で会社を興し、一代で日本を代表する1兆円企業へと導いてきた二人の経営者がいる。稲盛和夫氏と永守重信氏。同じ申年生まれで年齢はひと回りの差があり、永守氏は常に稲盛氏の背中を追いかけ、目標として仕事に邁進してきたという。稲盛氏が亡くなられたいま、永守氏は何を思い、これからどう歩んでいこうとしているのか。約40年に及ぶ稲盛氏との付き合いの中で受けてきた影響を交えつつ、胸の内を明かした。

恩返しというのは、恩師の企業以上になることだと思っているんです。
京セラやKDDIを超える会社を築くことが稲盛さんへの恩返しと捉え、いまも毎日、仕事に邁進しています

永守重信
日本電産会長

――先般、稲盛和夫さんが90歳で亡くなられました。訃報に接した時の思いをお聞かせください。

〈永守〉
私はあの方の背中を見ながらずっと経営をしてきて、絶えず後ろから「追いつき、追い越せ」という考えでいましたから、ものすごく大きな失望感でした。

100歳くらいまでは生きられるんじゃないかと思っていましたので、稲盛さんが亡くなることは想定していなかったです。

突然、指針となる存在を失って、困ったな、なんでこんなに早く去ってしまわれるんだという思いでしたね。

――長い間、目標としてこられた方が亡くなって、どのような決意を抱かれていますか。

〈永守〉
いま私は、「稲盛さんは65歳の時に京セラの会長を退任したじゃないか。あなたはいつまでやるの」と違った意味で稲盛さんと比較され、潔さがないとか散々記事に書かれています(笑)。

だけど、私には10兆円企業をつくるという、稲盛さんとは異なる目標があるんですよ。ですから、稲盛さんは65歳で辞めたんだからあなたも早く辞めろという考え方には一切与しません。

私は恩返しというのは、恩師ができなかったことをやる、経営の場合、恩師の企業以上になることだと思っているんです。

だから、そう簡単ではありませんが、「出来るまでやる」の精神で京セラやKDDIを超える会社を築くことが稲盛さんへの恩返しと捉え、いまも毎日、仕事に邁進しています。

プロフィール

永守重信

ながもり・しげのぶ――昭和19年京都府生まれ。42年職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。48年日本電産を設立、社長に就任。国内外で積極的なM&A戦略を展開し、世界No.1の総合モーターメーカーに育て上げた。現在、会長兼最高経営責任者(CEO)。平成30年京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園理事長に就任。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)『永守流経営とお金の原則』(日経BP)『人生をひらく』(PHP研究所)『大学で何を学ぶか』(小学館)など。


編集後記

日本電産会長の永守重信さんは現在、多忙で取材は断っているものの、稲盛さんに関する取材だけは受けるとのことで時間を捻出してくださいました。創業経営者としての迸る情熱や気魄と共に、時に垣間見える少年のような眼差しから、稲盛さんへの深い敬慕の念が伝わってきます。

2022年11月1日 発行/ 12 月号

特集 追悼 稲盛和夫

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