2 月号ピックアップ記事 /第一線で活躍する女性
あなたはあなたのままで素晴らしい存在 菅谷晃子(引き売り士)
毎号分野を問わず、人生を真剣に生き、一隅を照らしている女性にフォーカスしている人気連載「第一線で活躍する女性」。創刊当初より読者の皆様からの高い人気を得ている人気連載です。今月は、二十代前半から豆腐の引き売りを始めて約20年、ワイドショーでも注目を浴びる「引き売り士」菅谷晃子さんにご登場いただきました。
〔本文写真=本人提供〕
もしもいま、生きる意味を見失っている方がいたら、あなたは、あなたのままで素晴らしいんだよ。特別な何者かになろうとする必要なんてない。いま、生きているこの瞬間自体が幸せなんだよ、って伝えてあげたいです
菅谷晃子
引き売り士
――東京都内で豆腐の引き売りを約二十年、続けていらっしゃる女性がいると知って驚きました。
〈菅谷〉
これが、いつも街を歩きながら吹いている、真鍮(しんちゅう)でできたラッパです。もうこのラッパを直す職人さんが一人しかいないこともあって、私の命より大切なものと言っても過言ではありません。
私は毎週、月・火・土曜日は足立区綾瀬、木曜日は新宿区四谷と千代田区麹町(こうじまち)、半蔵門。金曜日は港区西麻布を回っています。引き売りの日は、まず都内の倉庫に行って、リヤカーにお豆腐やお惣菜、漬け物やお蕎麦などを積んでいきます。そうしたら幟(のぼり)を差し、前掛けを締めて、このラッパを持ってお昼頃に出発します。
――お豆腐以外も種類豊富に売り歩かれているのですね。
〈菅谷〉
はい。週に一回、お客様のことを思い浮かべながら仕入れを決めるんですけど、気がついたら約80種類、100キロも載せるようになっていました。
――100キロも。小柄な菅谷さんが引いているとは信じ難いです。
〈菅谷〉
「パー、プー♪」とラッパを吹きながら、坂道では時々腰に取っ手を引っかけて休むんです。台風や大雪の時はさておき、雨の日でもカッパを着て、一日に地下鉄8駅分くらい歩いていますよ。
いまは都心でも一人暮らしのお年寄りが本当に多くて、中には体が悪くて自分で買い物に行けない方もいらっしゃいます。そういう方には、1週間買い物の必要がないくらいのお惣菜を抱えて玄関前まで上がるんですが、天気の悪い日こそ心の底から「あこちゃん、ありがとう!」と言っていただけます。それが本当に嬉しいんです。だから売るためというより、皆さんとお話しするために会いに行っている感覚なんですね。
――単なる行商ではない。
―□■―□■―□■―□■―
豆腐やお惣菜の引き売りだけでなく、看取り士、講演家、歌手として多くの人に元気を届けている菅谷さん。
その背景には、幼少期の壮絶ないじめ・家出の体験、社会に居場所を見つけられなかった時代から、引き売りを通して自分の生き方を見つけてこられた歩みがありました。
-お話の内容-
◆迷ったら真心を感じるほうへ
◆暗く長いトンネルを歩き続けて
◆引き売りの仕事が与えてくれた使命
◆生きる意味を見失っているあなたへ
プロフィール
菅谷晃子
すがや・あきこ――昭和56年千葉県生まれ。専門学校を中退後、平成15年、23歳の時から引き売りを始める。30年看取り士の資格を取得。「豆腐屋あこ」として、本業の他に自身の体験を踏まえた講演や歌手活動などを幅広く展開。著書に『あこのありが豆腐』(三冬社)、オリジナル曲に『おとうふのうた』『お空から』(作曲:八文字裕紀、作詞:八文字裕紀、豆腐屋あこ)などがある。
編集後記
辛く苦しい前半生を歩まれていた菅谷さんがいま、明るく笑顔でいる理由。その一つひとつに、出逢いと別れ、その中で得た気づきが隠れていることに感涙を禁じ得ませんでした。人間、誰しも生まれてきた意味があり、それは自分で掴んでいけるんだということを教えられます。
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