2 月号ピックアップ記事 /インタビュー
一日一日の積み重ねが我が文楽人生をひらいてきた——人間国宝・三世 桐竹勘十郎に聞く 三世 桐竹勘十郎(人形浄瑠璃文楽座 人形遣い /人間国宝)
日本を代表する伝統芸能・人形浄瑠璃文楽。その人形遣いの一道を50年以上にわたって歩み続けてきたのが三世桐竹勘十郎氏、69歳である。「足遣い10年、左遣い15年」と言われる厳しい文楽修業を積み重ねてきた勘十郎氏に、若き日の学びや師匠の教え、その中から掴んだ人生・仕事の極意を語っていただいた。
一日一日、一回一回を誠実に丁寧にきっちり積み重ねていけば、人生も善き方向へと向かっていきます
三世 桐竹勘十郎
人形浄瑠璃文楽座 人形遣い /人間国宝
――勘十郎さんは、14歳で文楽の世界に入られたと伺っています。50年以上、文楽の道を一筋に歩み続けてこられたわけですね。
〈桐竹〉
私自身は何十年もやってきたという感覚はあまりないんです。気がつくといつの間にか50年も経っていた、そういう認識ですね。
――あっという間でしたか。
〈桐竹〉
あっという間です。よく周りの方からこれまで大変だったなとおっしゃっていただきます。
しみじみ振り返れば、確かにいろんな出来事があったのでしょうけれども、それほど大変な道のりだったかなぁと。
というのも、ひと言でいえば、文楽の仕事が好きやったんです。しんどいことがあっても、それを忘れさせてくれるくらい仕事が好きで、楽しかった。
仕事が「好き」というのは、何物にも勝る大事なことだと思っています。
ですから、好きになれる仕事に出合えて、50余年ずっと続けてくることができた。それが私にとって一番の幸せですね。
――好きという思いが勘十郎さんの文楽人生を導いてきてくれた。
〈桐竹〉
それに文楽の世界では、何十年と修業、下積みを積み重ねてきて、60歳くらいでやっと花咲く時期を迎えるんですね。
それまで積み重ねてきたものが思うように使えるようになるのが60歳頃で、そこからさらなる高みを目指して少しずつ修正を加えていく。
ですから、一生修業というように、「はい、ここで終わり」というものがないのがこの世界です。
プロフィール
桐竹勘十郎
きりたけ・かんじゅうろう――昭和28年大阪府生まれ。42年文楽協会人形部研究生になり、三世吉田簑助に入門、簑太郎を名乗る。61年咲くやこの花賞、63年大阪府民劇場賞奨励賞、平成11年松尾芸能賞優秀賞。15年父・二世桐竹勘十郎の名跡を継ぎ、三世桐竹勘十郎を襲名。20年芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、21年日本芸術院賞。令和3年重要無形文化財保持者(人間国宝)認定。著書に『なにわの華文楽へのいざない:人形遣い桐竹勘十郎』(淡交社)『一日に一字学べば……』(コミニケ出版)などがある。
編集後記
表紙及びトップインタビューを飾っていただいたのは、2021年7月に人形浄瑠璃文楽座 人形遣いとして重要無形文化財(人間国宝)に認定された桐竹勘十郎さんです。69歳のいまが最も楽しいとおっしゃるその表情、佇まいからは、厳しい修業を積み重ねてきた者のみがまとえる自信と風格を感じました。降りかかる艱難辛苦を乗り越え、充実した人生を掴むための極意が満載です。
特集
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