2 月号ピックアップ記事 /対談
おもてなしの道を追求して 桑村祐子(高台寺和久傳社長) 桑野和泉(由布院玉の湯社長)
京都を代表する料亭「和久傳」と大分由布院を代表する温泉旅館「玉の湯」。
先代よりそれぞれの経営を引き継ぎ、ブランド価値をさらに高めてきたのが桑村祐子さんと桑野和泉さんである。
事業承継に至るまでの葛藤や努力、コロナ禍における苦労や挑戦を赤裸々に語っていただくと共に、
全国から客足が絶えない秘訣、お二人が目指す一流のおもてなしとは何か。そして繁盛し続ける老舗はどこが違うのか――。
私のモットーは「心温かきは万能なり」という言葉です。一人ひとりのスタッフの誠実さ、その目に見えない総合力がお店の雰囲気を醸成し、それが結局、ブランドとか信用に結びつくと思っています
桑村祐子
高台寺和久傳社長
特に大事にしていることは、毎朝の掃除です。冬でも障子を開け放して、スタッフみんなで掃除をします。お座敷や廊下は塵一つないように掃き、畳や障子の桟の端まで丁寧に拭き、お座布団は飾りの房がきちんと揃うように調える。
新入社員研修の時は、お庭の苔の間に落ちたゴミをピンセットでつまんで拾い、庭木の葉っぱの一枚一枚を拭くようにしているんです。「そこまでやるの?」と思われるくらい徹底しているのには原点があって、それは大徳寺に居候していた時の体験です。
大徳寺での生活は掃除に始まり掃除に終わる、そんな日々でした。毎朝井戸水を汲んで水拭きするので、さほど汚れてもないのになぜ毎日やるんだろう、こんなに拭いていたら板が傷むくらいに思っていたんですが(笑)、ある日ふと、「拭いている私が気持ちいい」って感じたんです。
掃除をする前とした後では空気が変わる。人の気持ちが常に動くように、目に見えないけれども、空気も常に流れている。大徳寺での掃除体験を通してそういう気づきを得られました。
当たり前のことを当たり前に積み重ねること。優しさ、正直、誠実、そして謙虚を基本にしてお客様に寄り添いつつ、玉の湯〝らしさ〟をいつも追求していくことを大切にしています
桑野和泉
由布院玉の湯社長
私自身は毎日気持ちのいい朝を迎えたいんですよ、嫌なことや苦しいことがあったとしても。同じようにお客様にも気持ちのいい朝を迎えていただきたい。
そのために私たちができるのは、挨拶や掃除など当たり前のことを当たり前に繰り返していくこと。日常を大切にすること。その当たり前のことを一つでも手を抜いてしまうと、気持ちよくなくなってしまいますよね。
ですから、スタッフによく言っているのは、お客様に寄り添ってほしいということです。サービスを提供する側はともすると、寄り添うことよりも自分のサービスを優先してしまいがちになるので、特にサービス業に携わる人は謙虚さが大事だと思います。
おもてなしって何も特別なこととか大きな感動を与えることではなく、一つひとつは地味ですけれども、当たり前のことを当たり前に積み重ねること。優しさ、正直、誠実、そして謙虚を基本にしてお客様に寄り添いつつ、玉の湯らしいおもてなしとは何か、この「らしさ」をいつも追求していくことを大切にしています。
プロフィール
桑村祐子
くわむら・ゆうこ―昭和39年京都府生まれ。62年ノートルダム女子大学卒業。平成2年家業である料亭「高台寺和久傳」の2号店として、カウンター席中心の「室町和久傳」をオープンし、軌道に乗せる。19年「高台寺和久傳」女将、23年社長に就任。現在、京都市内に5店舗の料亭を運営する。
桑野和泉
くわの・いずみ―昭和39年大分県生まれ。62年清泉女子大学文学部卒業。平成4年家業の温泉旅館「由布院玉の湯」に入社、広報の仕事を担う。その後は専務を経て、15年社長に就任。NHK経営委員、JR九州社外取締役、ツーリズムおおいた会長、由布院温泉観光協会会長などを歴任する。
編集後記
日本独特のおもてなしの道を料亭と旅館の場でそれぞれ磨く高台寺和久傳・桑村祐子さん、由布院玉の湯・桑野和泉さん。同い年で30年来の親交がありながらも、対談は初めて。その笑顔の奥に秘められた、コツコツと誠実に歩み続けてきた人ならではの静かな覚悟が伝わってきました。
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