3 月号ピックアップ記事 /インタビュー
不断の努力こそ危機に応ずる最重要の資質 横田友宏(日本航空・スカイマーク元国際線機長)
悪天、機体トラブル、急病人……大空を飛ぶ旅客機には常に危機がつきまとう。不測の事態に陥っても乗客の命を守り抜くには、異変に動じない器量、人材が不可欠だ。国際線機長として30か国を行き来した時期を含め、定年まで45年間を無事故・無違反で貫き、総勢100名以上の後進にプロへの道を開いてきた横田友宏氏に訊く、危機に応ずる心の培い方。
〔機体写真 Ⓒスカイマーク〕
私は、パイロットに一番大事な資質は「努力し続ける資質」だと言っています
横田友宏
日本航空・スカイマーク元国際線機長
〈横田〉
機械トラブルに何度も見舞われましたけど、なぜか私が遭遇するのはチェックリストに該当しないものばっかりなんです。
よく覚えているのが、真冬のモスクワへのフライトです。セカンドオフィサーとして後部座席にいたんですが、空港に着く前、コックピットの窓ガラスの内側一面に霜が張って、全く外が見えなくなってしまいました。何と窓ガラスのヒーターがすべて故障しています。緊急時のチェックリストはあるのですが、その確認事項をすべて実施しても、全く回復しません。
このままでは大勢の乗客の命が危ない。とにかく氷を溶かそうと、熱いお湯を染み込ませたおしぼりで拭きました。ところが外は零下50度、お湯も瞬時に凍りつき、事態はより悪化してしまった。
――考えただけで恐ろしいです。
〈横田〉
それでも、人間は不思議なもので、本当に追い詰められるとふっと思い出すんです。あれはいつだったか、緊急脱出訓練の際に耳にした教官のひと言でした。
「水消火器の中の水は、不凍液だから飲めませんよ」
そこでピンと来ました。これなら氷が溶けるんじゃないか。CAの女性に指示しても間に合いそうになかったので、私がコックピットを飛び出して取りに行き、おしぼりに消火液を出して拭きました。幸い、氷はすべて溶けました。
――鋭い閃(ひらめ)きに恵まれましたね。
〈横田〉
振り返ると、常日頃「どうしたら安全に飛べるだろう、事故を起こさず済むだろう」と必死で考え続けていました。だから何気なく聞いたことが心の片隅に引っ掛かっていたんでしょう。
私は、パイロットに一番大事な資質は「努力し続ける資質」だと言っています。常日頃から努力を積み重ねていると、想定外の事態に遭った時にスッと助け舟が入るという実感があります。
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〔本人写真 Ⓒ日本航空〕
プロフィール
横田友宏
よこた・ともひろ――昭和28年東京都生まれ。航空大学校を卒業後、50年日本航空(JAL)入社。B747機長として世界30か国へのフライトを経験。米ナパ運航乗員訓練所では教官として当時最多の訓練生を送り出す。以降、試験飛行室機長、安全推進本部次長などを歴任し、平成23年スカイマークに移り乗員課機長、ライン操縦教官を務める。30年より現職。著書に『国際線機長の危機対応力 何が起きても動じない人材の育て方』(PHP新書)などがある。
編集後記
起き得る事故やリスクを未然に防ぎ、多数の乗客に安全・快適な空の旅を提供してきた横田さん。本記事では45年に及ぶフライト体験、教官として培ってきた指導論やリーダーのあり方を、心の奥にある熱い思いを込めて述懐していただきました〈計4ページ〉。
◉すべては事故の悲しみを一つでも消すために
◉パイロットは常に学び続けねばならない
◉不断の努力が危機に閃きを生む
◉機長に求められる振る舞いと心遣い
◉囚われを離れ使命を全うする
航空の世界を究めようと努力を続け、現在は桜美林大学航空・マネジメント学群で教鞭をふるう横田さんのお話は、広くビジネスにも通ずる実践的な視点に満ちています。
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