3 月号ピックアップ記事 /対談
逆境を乗り越えていまを生きる——闘病体験を通して掴んだもの 安奈淳(女優) 音無美紀子(女優)
宝塚歌劇団のトップスターとして活躍後、演劇や歌を中心に様々なステージに立ちながらも膠原病をはじめ幾多の難病に打ち克ってきた安奈 淳さん(左)。女優として数々のテレビドラマや映画に出演する傍ら、子育て中に突然見つかった乳がん、そしてその後発症したうつ病を乗り越えた音無美紀子さん(右)。「病をしたからいまがある」と当時を笑顔で振り返るお二人の話には、病に限らず、逆境や試練に直面した際の心の持ち方のヒントが詰まっている。
不平等だと思いたくなるけど、それでも人間って命ある限り生きなきゃいけないじゃないですか。
人生ってその修業ですね
音無美紀子
女優
〈音無〉
お恥ずかしい。最初に会ったのはもうかれこれ40年以上も前のことよね。1980年に森繁久彌さんが主演の東宝ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』で共演して。同じ名前だから、「みきちゃん」って言われると二人で振り向いてしまって(笑)。
私は小さい頃から宝塚が大好きだったので、あの時は憧れの人に会えた気分でずっと美樹ちゃんを眺めていました。
〈安奈〉
そうだったの?
〈音無〉
そうよ。宝塚は中学の頃からずっと憧れて、宝塚に入りたかったけど、6人姉妹で私だけにお金がかけられないと両親に言われて受験はできませんでした。
〈安奈〉
初めて聞いた(笑)。
〈音無〉
公演のプログラムやブロマイドも集めてましたよ。美樹ちゃんは歌もお芝居も上手だから、同じ舞台に立つことになった私は緊張しきりでした。
〈安奈〉
美紀子ちゃんはテレビとかでお芝居なさっていたから、ものすごくナチュラルな芝居をする人だなと思っていました。それにすごく素直だし、お料理が上手。いまもよくSNSに料理をアップしているけど、あの頃もよく稽古場に手づくりの料理を持ってきてくれたよね? 鶏ミンチの卵とじ、あれは衝撃的なおいしさで、私まだその味覚えているの。
〈音無〉
えぇ、本当に? 女優の山岡久乃さんが必ず楽屋に手づくり料理を持っていらしていて、それを森繁久彌さんが喜ばれていたのを知って、真似をしていたんです。森繁さんには「まだ修業が足りない」って言われましたけど(笑)。
〈安奈〉
それ以来、ちょこちょこは会っていたけど、互いに闘病生活のことを話すのは初めてね。
〈音無〉
ええ。だからこの対談の企画を聞いた時、「美樹ちゃんとならぜひ!」とすぐにお返事をして、会えるのを楽しみにしていました。
私は生きるか死ぬかという大病をしてよかったなと思っています。
そのおかげでどんなに大変なことがあっても、見方を変えれば福になると思えるようになりました
安奈淳
女優
〈安奈〉
私はいまも全快したわけじゃなくて寛解状態です。だからふとした瞬間にフラッシュバックすることがあります。管に繋がれ、検査だらけで「死んだほうがまし」と心を閉ざしていた時の自分。あの苦しい状態に戻りたくない一心で、日々の健康管理は人一倍心を砕いています。自分の体は自分でしか守れないから、マイルーティーンをしっかりつくって、規則正しい生活を心掛けています。
〈音無〉
元に戻りたくないって気持ちよく分かります。私の場合、心が鬱々としたりざわざわした時は、考え込まずに何でもいいのですぐ行動するようにしています。そうすると心も前向きになる。
以前の私は「もう駄目だわ」「もう嫌になっちゃう」と「もう」が口癖でした。でも、同じ5分でも「もう5分しかない」と思うのか「まだ5分もある」と思うかで心のゆとりが全く変わってくるじゃないですか。だから意識して「まだ」と思うようにしています。「もう」を「まだ」に変えるだけで、心の持ち方や見える世界が180度変わってくるんです。
プロフィール
安奈淳
あんな・じゅん――昭和22年大阪府生まれ。本名は富岡美樹。40年宝塚歌劇団に入団し、星組・花組の男役トップスターに。50年『ベルサイユのばら』のオスカル役を演じ、第1期ベルばらブームを築く。53年30歳で退団後、持ち前の演技力と歌唱力を活かし舞台などで活躍。平成12年に膠原病となり生死の境を彷徨い、長い闘病期間を経て奇跡的に復帰。著書に『70過ぎたら生き方もファッションもシンプルなほど輝けると知った』(主婦の友社)など。
音無美紀子
おとなし・みきこ――昭和24年東京都生まれ。41年劇団若草に入団し、42年17歳の時に『でっかい青春』でドラマデビュー。46年TBSテレビ小説『お登勢』の主演で一躍脚光を浴び、数々の映画、TVドラマ、舞台、CMで活躍。62年乳がんを患い左乳房を全摘出。その後、うつ病にも苦しむが家族の支えによって立ち直る。著書に『がんもうつも、ありがとう! と言える生き方』(青春出版社)など。
編集後記
女優の安奈淳さんと音無美紀子さん。半世紀以上にわたりテレビや舞台、映画などで活躍しているお二人ですが、芸能界の華やかさや明るい笑顔とは裏腹に、共に若い頃から難病を患い、生死を彷徨うほどの闘病生活を余儀なくされてきました。その壮絶な出来事を通して得た気づきは、私たちに生きる希望と勇気を与えてくれます。
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