12 月号ピックアップ記事 /意見・判断
日本の海は海上保安庁が守る! ~尖閣諸島を巡る知られざる攻防の実態~ 奥島高弘(第四十六代海上保安庁長官)
わが国の固有の領土である尖閣諸島周辺では、中国公船による活動が年々活発化しています。隙あらば日本の領海への侵入や漁船への接近を繰り返す中国公船に対して、365日、身の危険を顧みず警戒警備に当たっているのが海上保安庁です。この度、『知られざる海上保安庁 安全保障の最前線』を上梓した第四十六代海上保安庁長官の奥島高弘さんに、尖閣諸島を巡る緊迫した状況と領土領海を守るべく奮闘している海上保安庁の実際を語っていただきました。
【写真=中国公船(奥)を警戒監視する海上保安庁の巡視船 ©海上保安庁】
今後ますます厳しさを増す安全保障環境の中でリーダーに求められるのは、決して相手に後ろを見せない胆力と、常に動き続ける現場での的確な判断力。
これに自戒を込めて付け加えるとすれば、唯我独尊に陥らないことです
奥島高弘
第四十六代海上保安庁長官
尖閣諸島の周辺で、中国公船の活動が一段と活発化しています。
2018年の接続水域内確認日数が159日であったのに対し、2023年には350日と、ほぼ毎日確認されています。
連続して接続水域内に留まる日数も、2023年12月から2024年7月にかけて過去最長の215日を記録するなど長期滞留が常態化。近年では我が国領海で日本漁船等へ接近する事案も頻発し、これに伴う領海侵入時間は2023年4月に過去最長の80時間36分に達しました。
こうした緊迫した状況の中、我が国の領土・領海を断固として守り抜くという方針の下、24時間・365日領海警備に尽力しているのが海上保安庁なのです。
私は、地元北海道の高校を出て海上保安大学校に学び、1982年に父も在籍していた海上保安庁で勤務を開始しました。2020年には海上保安庁長官という大役を仰せつかり、2年後に退官。44年にわたる海上保安官人生は、退官の辞でも述べた通り「海上保安庁に学び、海上保安庁に教えられ、海上保安庁に育てられた44年間」であったと言えます。
2012年に我が国が尖閣諸島を国有化し、これに反発する形で周辺海域へやって来る中国公船の数が激増した際、私は尖閣警備を担当する領海警備対策官を務めていました。当時は十分な情報がなく、相手がどんな行動に出るのか予測は困難でした。連絡を受けて現地へ急行するヘリコプターの中で、体が押し潰されるほどの緊張感に苛なまれたことを覚えています。
最悪のケースは、相手が尖閣に上陸してしまうこと。現場で指揮を執る私は、その一歩手前の領海侵入を阻止すべく、こちらの船を先回り、先回りさせて相手の頭を押さえ込みました。
最も気懸かりだったのは、中国公船にヘリコプター運用能力があるか否かでした。空から島に向かわれては打つ手がないからです。霞が関からも矢のように状況確認の連絡が飛んでくる中、我われは船尾側から船上の格納庫を注視し、シャッターの隙間からヘリが搭載されていないことを確認。これで空中戦の可能性はなくなった、と思わず胸を撫で下ろしました。
以来、尖閣諸島周辺での中国公船との応酬はいまも続いています。
……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~
◇我が国の領土・領海を断固として守り抜く
◇なぜ自衛隊ではなく海上保安庁なのか
◇中国公船を抑え込む海上保安庁
◇冷静かつ毅然と危機に対峙し続ける
プロフィール
奥島高弘
おくしま・たかひろ――昭和34年北海道生まれ。57年海上保安大学校卒業。海上保安官として警備救難、航行安全等の実務に携わり、警備救難部警備課領海警備対策官、第八管区海上保安本部長、警備救難部長、海上保安監などを歴任。令和2年第四十六代海上保安庁長官に就任。4年海上保安庁長官を退任。著書に『知られざる海上保安庁 安全保障最前線』(ワニブックス)がある。
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