0歳からの子育て ~子育てにも法則がある~ 内田伸子(お茶の水女子大学名誉教授) 佐藤亮子(教育評論家)

子育ては十人十色という。一方で自分の子育てに迷い、自信を失う親もいる。普遍の法則は本当にないのだろうか。NHK教育テレビの番組監修や通信教材の開発に携わってきた発達心理学者の内田伸子さん、絵本1万冊・童謡1万曲の教育で三男一女を東京大学理科三類へ進ませ注目を浴びる佐藤亮子さん――昨今の教育界に一石を投じる親交の深いお二人に、子育てのヒントを繙いていただく。

子供が歩むペースに寄り添って、成長を待つ、見極めるという余裕を持ってほしい。決して急がず、急がせないで。

子供より半歩下がって、子供が一歩先に進む手伝いをするのが親の役目です

内田伸子
お茶の水女子大学名誉教授

〈佐藤〉
あぁ内田先生、お久しぶりです!

〈内田〉
お久しぶりです。

〈佐藤〉
1年ぶりですかね?

〈内田〉
そのくらいかしらね。

ついさっきまで、こども発達学科の教授を務めている岡山県のIPU・環太平洋大学の講義を自宅からオンラインでやっていたの。佐藤さんと対談があるから急いで飛び出してきたんですよ。

〈佐藤〉
先生と最初にお会いしたのは、もう7年くらい前になりますね。テレビ番組でピアニストの辻井伸行君のお母さんのいつ子さん、卓球の平野美宇選手のお母さんの真理子さん、レスリングの吉田沙保里選手のお母さんの幸代さん、そして私の4人で、母としての体験を語りました。コメンテーターの一人が内田先生でしたね。

〈内田〉
ええ。佐藤さんがお子さん全員を東京大学理科三類に入学させたと聞いて、感心しました。

〈佐藤〉
あの時は上の男の子3人だけでしたけど、長女も同じ学科を卒業して4人になりました(笑)。

〈内田〉
印象に残ったのはね、どのお母さんも、自分の子が成長していける環境をしっかりと準備されていたことです。中でも佐藤さんは、勉強でも子供たちに直近の目標ばかり追わせるのではなくて、将来どういう人生を送ってほしいか、自走できる人に育ってほしいかを考えて接していらした。

子育てって子供と1対1で向き合ってあげることが大切ですね。

子供は本当に非効率の塊で、無駄に思えることの連続ですけど、親が考え方や姿勢を変えるだけでガラッと変わる

佐藤亮子
教育評論家

〈佐藤〉
私は、子育てを18年限定の尊い営みと思って没頭しました。18歳から先はもう自分の世界ができてくるだろうし、その先は元気に、好きな道を歩んでくれればいい。実際、手のかけようもないですしね。その代わり、18まではとにかく手をかけようと。

〈内田〉
立派ですよ。

〈佐藤〉
だから、うちの育て方を誰に何と言われようと、もう育っちゃったから仕方ないよねっていうスタンスなんです。でも、教育の専門家や学者さんから「学問的にはこうだ」って、親や子供を取り巻く現実を顧みずに正論のようなものを振りかざされて、何だかなあ、と思うこともありました。

その点、内田先生は違いました。

いま家庭はこうなっている、子供はこう育つものだから……って、子供を見る目が優しいんですよ。当然、子供を育てる母親にも優しい。お会いする度に「ああ、心地いいなあ」って思います。

〈内田〉
去年、NewsPicksさんの討論番組で早期教育の是非について話し合った時も、佐藤さんは賛成派、私は反対派の代表で呼ばれていたのに、いつの間にか意見が合っちゃったものね(笑)。

早期教育がいいかどうかの議論は昔からありますけど、要は〝自走〟できる子供に育てることが大事なんです。自走というのは自分で物事を考え、判断し、自分の人生を選び取れる力があること。乳幼児期からその人間の根っこを育てていく大切さを、佐藤さんの体験は教えてくれています。

……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇自走する力を乳幼児期から育てる
◇〝間違い〟だらけの早期教育
◇スマホ、タブレット、動画の弊害とは
◇母に教わった分け隔てない人間愛
◇少女時代に衝撃を受けた2つの新聞記事
◇私はこうして読み聞かせた
◇読み聞かせのすごい力
◇子供の人生を分ける親の言葉がけ
◇AIに負けない生きる力を育む
◇待つ、見極める、急がず、急がせないで

プロフィール

内田伸子

うちだ・のぶこ――昭和21年群馬県生まれ。45年お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。平成2年同大文教育学部教授に着任。専門は発達心理学、言語心理学など。ベネッセ「こどもちゃれんじ」監修やNHK「おかあさんといっしょ」番組開発も務める。23年より現職。令和3年文化功労者。5年瑞宝重光章を受章。著書に『AIに負けない子育て――ことばは子どもの未来を拓く』(ジアース教育新社)他多数。

佐藤亮子

さとう・りょうこ――大分県生まれ。津田塾大学卒業後、大分県内の私立高校で英語教師を務める。結婚後は専業主婦として三男一女を育て、全員を東京大学理科三類に進学させる。その教育が注目を集め、現在は進学塾のアドバイザーを務めながら、子育てや受験をテーマに全国での講演やメディア出演を行う。著書は『子どもの脳がグングン育つ読み聞かせのすごい力』(致知出版社)他多数。


編集後記

情報が溢れ返り、子を持つ親が確たる道標を掴みあぐねている教育界。心理学や脳科学の豊かな知見を有する内田伸子さんが指摘する早期教育の欠点に目を開かされる思いです。三男一女を日本の最難関大学に送り込んだ佐藤亮子さんの、実践に裏打ちされた子供を伸ばす接し方にも膝を打つことしきり。キーワードである「言葉がけ」を通じて子育ての法則を教えられ、未来への希望が湧いてきます。

2024年11月1日 発行/ 12 月号

特集 生き方のヒント

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