お客様を裏切らない最高の仕事をする 安積登利夫(アサカテーラー創業者)

テーラー稼業60余年。13歳から磨いた腕で、廣岡達朗・王貞治両氏を筆頭に各界スターの装いに華を添えてきたのが安積登利夫氏だ。着る者を唸らせる品質は内閣総理大臣賞の折り紙つき。85歳で洋服学校を開校し、倦むことのない氏の熱情に圧倒される。

商売で一番大事なことは、お客さんを満足させる、絶対裏切らないこと。

常に約束を守って、最高の仕事をするということに尽きますね

安積登利夫
アサカテーラー創業者

――新聞で安積(あさか)さんの記事を拝見し、伺いました。13歳で洋服づくりの道に入られ、王貞治さんなど各界の著名人のスーツも多く仕立ててこられたそうですね。

〈安積〉
ここに当時の写真がありますよ。嬉しいことに結婚式の洋服も任せていただきました。あの人は人間ができてる。野球選手で一番尊敬しているのは王さんだ。

――服の仕立てを通して、深いお付き合いをされてきたのですね。

〈安積〉
ええ。王さんに限らず、僕は27歳で独立した頃から〝トータルファッション〟でお付き合いをしておりましてね。ただ洋服を注文通りに仕立てて終わりじゃなく、着方、着こなしを徹底的にアドバイスするんです。

ワイシャツにネクタイ、ベルトも靴も全部お教えします。僕が候補を選んで「この中からお好きなのをどうぞ」と。するとね、お客さん自身は違いが分からなくても周りの人に褒められる。それで気に入っていただけたんですね。

――安積さんのオーダースーツ専門店 Fashion AT Men’s(東京都)は1年以内のリピーターが93%だとか。

〈安積〉
十何年前にテーラーとして実力をつけた息子の武史に経営を譲りましたが、おかげさまでね。

オーダーといっても、体に合わせるだけなら他のお店と同じですよ。それ以上に大事なのは、お客さんが服に何を求めているのか、ご要望を会話の中で引き出して形にして差し上げることです。

そしてパッと見た時に「オーダーの服だ」って周りが分かるように仕立てることができるのが洋服屋の頭ですよ。襟を工夫して二重にしたり、少し意表を突くところに名入れしたり、細部に気を配る。そうして初めて、着心地も見た目もいい上に「お洒落だね」と褒められる洋服ができるわけです。それこそがお客さんが心から満足する、本当の注文服というものです。

……続きは本誌をご覧ください!

~本記事の内容~
◇往年のスターたちの心を掴んだ服づくり
◇これまで十年耐えた奴はいない
◇商売の秘訣 ここにあり
◇天下の巨人寮に足を踏み入れて
◇男は仕事をやめてはいけない

プロフィール

安積登利夫

あさか・とりお――昭和8年福島県生まれ。4歳で家族と満洲・大連に渡り、22年引き揚げ。13歳より東京浅草橋の紳士服店で14年間修業後、アサカテーラー創業。平成15年全日本注文紳士服技術コンクールで内閣総理大臣賞。29年東京洋服アカデミー設立、後進育成に当たる。職業を通じて、社会に奉仕することがモットー。


編集後記

本当に91歳なのか? 本連載の取材で毎回と言ってよいほど感じることですが、これまでの生き様が刻まれたような安積さんの笑顔と語り口に魅せられました。そのお話には当時の日本の空気を感じるのみならず、ご自身のプロとしての体験哲学が至るところに光って見えました。文字通り生涯現役を貫く安積さんの姿に、こちらが活力をいただきます。

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