11 月号ピックアップ記事 /エッセイ
一日一日を大切に生きる 関本雅子(かえでホームケアクリニック顧問)

日本における緩和ケア医療の草分けとして、これまで4,000人を超える人々の最期を看取ってきた緩和ケア医の関本雅子さん。誰もが穏やかな最期を迎えられる社会を目指して奮闘を続ける関本さんに、これまでの歩みを辿っていただきながら、いまも印象に残る患者との出会い、そしてがんで亡くなった長男・剛氏が教えてくれた人生で大事なことをお話いただいた。
【写真=与えられた人生を精いっぱいに生き切った剛氏と共に】

明日にはこの世にいないかもしれない終末期の患者さんに寄り添い、人生体験やご希望に耳を傾けていると、まるで毎日小説を読んでいるような感覚を覚えると共に、人間は亡くなっても決してゼロになってしまうことはない、必ず魂になって向こうの世界で待ってくれている、そう信じられるようになりました。
関本雅子
かえでホームケアクリニック顧問
曾祖母が亡くなった日のことはいまもはっきり覚えています。
私が高校生の頃、同居する曾祖母は足の怪我と認知症のため、6畳の和室で寝たきり生活を送っていました。そんなある日、私と祖母が隣の部屋で談笑していたところ、突然、「え、何?」と思うほど場の空気が変わったのです。異変を感じて曾祖母の様子を見に行くと、既に息が止まり亡くなっていたのでした。89歳でした。
人間はこうして歳をとり、最期はこんなに小さくなって自然の土に還るように穏やかに死んでいくんだ――。曾祖母の最期に接したことで、死は苦しいものでも、恐ろしいものでもないというイメージが私の中で確かなものとなりました。そして、この体験が後に緩和ケア医として歩んでいく私のベースになったのだと思います。
兵庫県神戸市に生まれ育った私が医者の道を志したのは、通っていたミッションスクールで行われた講演会で、医師の岩村昇先生のお話を伺ったことがきっかけでした。
当時、岩村先生は奥様と共にネパールなどで医療奉仕活動に取り組んでおられたのですが、私も将来は医者になって弱い立場にある人々のために貢献したいと心から感動したのです。また、医学者、神学者であり、アフリカで医療奉仕・伝道活動に生涯を尽くしたアルベルト・シュヴァイツァー博士についても学び、より一層医者への憧れを強めていきました。
その思いを胸に勉強を重ねた私は、1968年に神戸大学医学部に進学。外科や内科など専門を決める中で、医療で子供たちに関わりたいなと考えていたところ、ちょうど小児麻酔の大家の先生が教えていらっしゃったこともあって、麻酔科に進みました。小児麻酔について学べば、こども病院などに出張ができると思ったのです。
ところが、その後、私の人生は何かに導かれるようにして思わぬ方向へと進んでいくのでした。
……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇医の道に進んだ原点
◇人生を変えた3人の最期
◇終末期医療の道をひらく
◇生きている限り成長できる
◇誰もが奇跡を生きている
本記事では、緩和ケア医の道を切り拓いてきた関本さんに、人生を最期までよりよく生き抜くヒント、若くして旅立った長男の剛さんが教えてくれたことを語っていただきました。
プロフィール
関本雅子
せきもと・まさこ――昭和24年兵庫県神戸市生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸労災病院麻酔科などを経て、平成6年より六甲病院緩和ケア病棟医長。13年神戸市内に関本クリニック(現・かえでホームケアクリニック)を開業。著書に、『生きる』(兵庫生と死を考える会)『ホスピス入門』(行路社)、『あした死んでも後悔しないために、今やっておきたいこと』(PHP)『在宅ホスピスハンドブック』(医薬ジャーナル)などがある。
編集後記
顧問を務めるかえでホームケアクリニックにて温かく私たちを出迎えてくださった緩和ケア医の関本雅子さん。2年前に長男の剛さんを亡くされた悲しみを受け止め、いまも人々の最期の時に寄り添い続ける関本さんの体験談に、いま生きていることの奇跡を教えられます。

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