11 月号ピックアップ記事 /エッセイ
いのちの教育の探究者・東井義雄の生き方が教えるもの 衣川清喜(白もくれんの会会長)
四方を山に囲まれた兵庫県但馬地方の一教師でありながら、その名を全国に知られる教育者・東井義雄氏。東井氏が生涯を捧げた「いのちの教育」の実践記録や残した言葉は、その死から30年以上が経過したいまなお、教育者だけでなく多くの人々の指針となっている。教え子であり、東井氏を顕彰する白もくれんの会会長である衣川清喜氏に師の思い出を交えて、その生き方をお話しいただいた。
【写真=相田小時代の東井氏と子どもたち(前列右端が衣川氏)】
東井先生は「欲望の僕となるな。欲望の主人公になれ」という言葉も残されています。物が豊かになると誘惑も多くなります。
教え子たちが欲望の渦に溺れることなく、健全に育ってくれることは先生の願いでした。
欲望の主人公であってこそ人間は自ら幸福を創造し、いのちを燃え立たせることができると考えられたのです
衣川清喜
白もくれんの会会長
東井義雄先生が、ご自身の母校でもある相田小学校(兵庫県豊岡市但東町)で私たち5年生のクラスを受け持たれたのは昭和32年、先生が45歳の時でした。
当時の先生は生活苦ゆえに心まで貧しくなっていく村の子たちの現状を憂い、子どもたちに希望と勇気をもたせる「村を育てる学力」の育成に力を注がれていて、その優れた実践によりペスタロッチー賞を受賞されたのも、私たちのクラス担任をされていた時でした。
終生、子どもと共にありたいというのが先生の願いでしたが、病気休暇の相田小校長の後を継いで2年後には校長に推されましたので、クラス担任として直接指導を受けたのは私たちが最後となります。5、6年生の2年間という短い間でしたが、その謦咳に接し得たことは、いま振り返っても実に幸運なことでした。
但東町は兵庫県の山間部にある小さな町です。その一教師に過ぎなかった先生は若い頃から生活綴り方教育(子どもたちが生活の中で感じたこと、考えたことを書くことで表現させる教育)で注目を集め、『村を育てる学力』の出版により全国に知られた存在になられました。
先生の教育者としての功績は枚挙に遑(いとま)がありませんが、通信簿を子どもの優劣を示す相対評価から、一人ひとりの伸びを評価する絶対評価に切り替えられたこともその一つといえるでしょう。
……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇厳格で優しく温かく頼れる教師
◇よい悪いを自分で判断できる子に
◇「子どもたちを欲望の主人公として鍛える」
◇恩師の夢を実現できつつある喜び
◇人間のいのちを見つめ続けた人生
プロフィール
衣川清喜
きぬがわ・せいき――昭和21年兵庫県生まれ。県立農業講習所卒業後、県庁入庁。主に県内の農業改良普及センターに勤務。豊岡農林水産振興事務所長、但馬県民局地域振興部長などを歴任。平成19年但馬ドーム館長、平成22年東井義雄記念館館長、令和3年より白もくれんの会会長。
編集後記
森信三師が「教育界の国宝」と称えた教育者・東井義雄先生。その歩みや教育者としての信条について、小学校の教え子である白もくれんの会会長・衣川清喜さんにお話しいただきました。厳格で優しく温かく頼れる教師。そんな東井先生のお人柄が数々の逸話を通して伝わってきます。
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