子供たちの命を輝かせる教育【地方から頂点への挑戦】 国分秀男(東北福祉大学元特任教授) 本田哲朗(福島成蹊学園理事長・校長)

都市と地方の格差拡大が叫ばれて久しい。教育分野で顕著だが、その主因は教師と学生の〝意識〟の差だ、と口を揃える人物がいる。高校女子バレーの無名校を在任中に全国制覇10回の強豪に育て上げた国分秀男氏。定員割れに喘いでいた私学に赴任し、塾に頼らず東大理科Ⅲ類ほか最難関大学への進学者を続々輩出する本田哲朗氏。共に東北の地で前途ある若者を羽ばたかせてきた名伯楽の語らいに、命を輝かせる教育の秘訣を探る。

「言葉」は「意識」を変え、「意識」は「行動」を変え、「行動」は「結果」を変えるんです

国分秀男
東北福祉大学元特任教授

〈国分〉
本田先生、きょうはどうもありがとう。こうして対談の機会をいただけて嬉しいですよ。

〈本田〉
わざわざ古川(ふるかわ)から福島までご足労くださって、ありがとうございます。

〈国分〉
いま、都会には所得の高い家の、意欲も高い優秀な生徒を受け入れて実績を上げているよい学校がたくさんあります。

でも、予備校に通うお金がない、学力も心許ない生徒をぐんぐん伸ばして、名立たる難関大学に合格者を出す学校が地方にある。しかも元同僚にそんな素晴らしい教師がいる。

僕も3月で80歳になったので、それを最後に伝えたくて、30年愛読している『致知』の編集部に本田先生の資料を送りました。

〈本田〉
いや、『致知』はこの福島成蹊学園に来た当時の校長先生に薦められて、約20年読ませていただいていますから、きょうこの場に至っても恐縮しています。

教師というのは、目の前の生徒以外は教えられません。そこにいる生徒がすべて。その命を輝かせることですべてが始まる

本田哲朗
福島成蹊学園理事長・校長

〈国分〉
まず、この春の大学合格実績にはびっくりしたね。

〈本田〉
おかげさまで例年以上の好成績でした。中高一貫コースからは東京大学2名(理科Ⅲ類、同Ⅱ類)、京都大学(理学部)1名、一橋大学(ソーシャル・データサイエンス学部)1名、そして東北大学(医学部保健学科)1名と、超難関とされる国公立大学に合格者が出ました。今年県内で東大に複数の合格を出したのは県立の進学校2校と当校だけのようです。

〈国分〉
東大理科Ⅲ類なんて、日本の最難関ですからね。

〈本田〉
本県私立学校では当校が初めての合格です。今年の理Ⅲの合格者39名をインタビューした市販の書籍にその女子生徒が掲載されましてね。読んでみたら、予備校に通わずに合格した現役女子学生は彼女だけでした。

〈国分〉
さらにびっくりするのは、初めから優秀な生徒を集めているわけではないんだな。

〈本田〉
入学時点の偏差値が50を超えていたことは未だにありません。毎年、46くらいですね。

〈国分〉
皆、耳を疑うところです。

〈本田〉
国分先生がおっしゃったように、日本の都会と地方には教育格差が歴然とあります。その本質は社会経済的地位、要は経済力による格差です。手を打たない限り、この格差は広がる一方でしょう。この現状に一矢報いたい、その一心でこれまでやってきました。

……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇東北の地で教育の固定観念を打ち破る
◇あの出逢いがあってのいま
◇知恵と工夫、努力が頂点への道を拓く
◇教師の本分を貫きたかった
◇「あんたの言葉には夢がない、力がない」
◇東北の無名校、かくして栄冠を掴む
◇教師は目の前の生徒しか教えられない
◇いかにして自信を育てるか
◇思えば則ち之を得る
◇子供が自分に克つ力をつけさせる
◇教育の世界では錬金術は成り立つ

東北のスポーツ界に熱狂を巻き起こした名監督と、東北から教育の復興に燃える熱き教師。30年以上前に結ばれた絆がいまなお脈打ち、新たな奇跡を起こそうとしている様に胸が熱くなります。

プロフィール

国分秀男

こくぶん・ひでお――昭和19年福島県生まれ。慶應義塾大学卒業後、京浜女子商業高等学校(現・白鵬女子高等学校)を経て、48年宮城県の古川商業高等学校(現・古川学園中学校・高等学校)に奉職。商業科で教鞭を執る傍ら、女子バレーボール部を指導。全国大会出場77回、うち全国制覇10回。平成11年には史上5人目の3冠(春、夏、国体)の監督となる。8年から春夏とも4年連続決勝進出という高校バレー史上初の快挙を成し遂げる。

本田哲朗

ほんだ・てつろう――昭和28年福島県生まれ。東京理科大学理学部化学科卒業、同大理学専攻科修了。52年聖望学園中学・高等学校教諭、平成2年古川商業高等学校(現・古川学園中学校・高等学校)教諭、教頭を経て16年に福島成蹊学園高等学校に教頭として着任。20年中高一貫コース開設に尽力。同年校長に就任し、令和6年3月より学校法人福島成蹊学園理事長を兼務。


編集後記

弱小女子バレーボール部を日本一の常連に導いた名将・国分秀男さんと、平均以下の学力で入学した生徒を超難関大学へと毎年送り出す名教師・本田哲朗さん。かつて同じ高校に勤務して切磋琢磨し、誰もが無理だと言った快挙を成し遂げた歩みに驚かされます。原点は指導者の向上心、何より子供の意識を高め、人間力を培うことが大事。イキイキと教育論を語り合う姿に未来への希望を抱きました。

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