12 月号ピックアップ記事 /生涯現役
自分のやることに誇りを持ちなさい 幡本圭左(安全薬局 薬剤師)
閑静な住宅街の道端に、ひときわ年季の入った壁面看板が目に入る。漢方を中心に取り揃え、この地で70年の歴史を刻む「安全薬局」だ。先の大戦の日本本土空襲が迫る東京で薬剤師となり、齢三十より一業を離れず歩みきた幡本圭左さんの目に、いま映るものは。
自分の仕事を続けてこられたのはお客様に喜んでいただいたから。皆様に支えてもらえたからです
幡本圭左
安全薬局 薬剤師
【100歳を目前にギネスブックにて「世界最高齢の薬剤師」の認定を受け、今年9月18日に101歳を迎えた幡本さん。薬局に入るや、杖にも頼らず調剤室から姿を見せ、歓待してくださった。】
――外観も素敵でしたが、中に入ると壁一面に漢方や自然薬が並んでいて、歴史を感じます。
〈幡本〉
ほとんどこのお店を開いた時のまんまです。昔は私の他に従業員がいましたけど、主人の死後は薬の仕入れやら調剤、帳簿づけも全部一人でしているんです。それで一時大変だったんですが、見兼ねた次女が夫婦で帰ってきて、一緒に暮らしてくれています。
――101歳になられても週6日、営業されているそうですね。
〈幡本〉
はい。最近でもお客様から「俺が元気なうちは、死んじゃ困る!」なんてお声もいただきます。その方にあなたいくつなの、って聞いたらまだ70代で。それはさすがに無理じゃない? って答えましたけども(笑)。
――それだけ信頼が厚いのですね。
〈幡本〉
うちはお客様によって何とか成り立っているお店です。病気を治す薬も必要ですが、病気になる前の予防するものを主にお出ししています。それをずっと飲んでくださっているお年寄りが多い。30年、45年なんて方もいらっしゃいます。
私は何でも「なぜ、どうして」と深く考えます。お客様の症状を伺う時、差し支えなければ過去の病歴までお伺いして、一番いいと思う薬をお選びしてきました。そのせいで、ついつい1~2時間話し込んじゃうんです。
――いまも仕事が楽しいと。
〈幡本〉
楽しい。仕事が大好きです。
でも、他のことはからきしだから(笑)。ご飯に洗濯、掃除は全部、娘がやってくれています。この間はNHKで取り上げられて、何だか私だけに光が当たっていますけれども、自分の仕事を続けてこられたのはお客様に喜んでいただいたから。皆様に支えてもらえたからですよ。
プロフィール
幡本圭左
はたもと・けさ――大正11年長野県生まれ。地元の小学校、女学校を経て昭和18年20歳で東京薬学専門学校女子部を卒業。結婚後の27年「安全薬局」開業。令和4年99歳292日で〝世界最高齢の薬剤師〟としてギネス認定を受ける。
編集後記
〝世界最高齢薬剤師〟。そう銘打たれた動画がインターネットで公開されていますが、実際にお会いした幡本さんは、それにも増して素敵な笑顔で仕事に向かわれていました。101歳を超えていながら、こちらの投げかけにも的確に答えられる頭脳と耳の冴え方は、薬剤師としての長年の仕事の賜物だと感じました。そして、よく口にしておられるという「神様、仏様、皆様ありがとう」の言葉には、何かに守られて生きてきたと自ら語る半生への感謝、他人への深い感謝が透けて見え、多くの常連さんに慕われる理由が分かりました。
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