運命を切り拓く力をどう養うか——高田好胤和上に育てていただいた心 大谷徹奘(法相宗大本山薬師寺 執事長)

生きている限り、試練はやってくる。それを運命と諦めて逃げるか、受け止めて前に進むか。
1300年の古刹・薬師寺で、歴代住職が成し得なかった白鳳伽藍復興を完遂した高田好胤和上。その法脈を継ぎ、法話行脚を続ける大谷徹奘師は、運命、命をどう運ぶかは自分次第だと言う。
誰にも与えられた、しかし限られたこの命を、どう自分のものとして生きるか――。
〈写真提供=薬師寺公室/撮影=清水隆介〉

人生には導いてくれる師匠、支えてくれる仲間がいる。でも、命を運ぶ運転手は他でもない、自分

大谷徹奘
法相宗大本山薬師寺 執事長

1990年、27歳から「心を耕そう」をスローガンに法話行脚を始めました。行き先はお寺に限らず、幼稚園や老人ホーム、企業、刑務所まで、全国ありとあらゆる場所からお声がけをいただいて話をさせていただいてきました。

私には、どんな会場に行っても絶対に譲らないことがあります。それは話の最初、演壇があれば必ず降りて、座っている皆様には立っていただいて、同じ目の高さで挨拶をするということです。

私は人生の中で、皆さんに逢わなくてもよかった。だけどこうして逢えました。これから○○分、お金では買えない自分の命を削って話をします。ただ、私が命を削るのは勝手ですが、同時に皆さん方の命をいただかなければいけません。ご面倒ですが、ご起立ください。それではご一緒に挨拶をさせていただきましょう。こんにちは! ……こう話に入ります。

人と人の出逢いは、命懸けです。命と命の出逢いなんです。

〝「よっぽどの縁」があってのあなたと私〟

これは若い頃から大事にしている言葉です。よっぽどの縁がなければ、あなたと私、命と命は出逢いません。挨拶の前には必ず深くお辞儀をします。これは目前の方の命に無礼をしたくないからです。

さて、このような姿勢を誰から学んだかというと、千三百年の歴史あるこの薬師寺の管主を勤め、親しみやすい法話で老若男女に愛された師匠・高田好胤和上です。

 ▼「よっぽどの縁」があってのあなたと私
 ▼〝天才の努力家〟が育ててくれた心
 ▼いのちを運ぶで運命 その運転手は自分
 ▼祖師たちが目指したものを目指して
 ▼限りある命をいかに自分のものとするか

プロフィール

大谷徹奘

おおたに・てつじょう――昭和38年浄土宗重願寺(東京都江東区)に二男として生まれる。高校在学中の17歳の春、薬師寺住職・高田好胤の誘いを受け出家。龍谷大学大学院修士課程修了。平成11年より「心を耕そう」をスローガンに法話行脚を始める。15年薬師寺執事。副執事長を経て令和元年より現職。奈良少年院・大阪矯正管区篤志面接委員。『人生はいつだって自問自答』『幸せの法則』(共に小学館)ほか著書多数。


編集後記

〝天才の努力家〟――薬師寺の名物管主だった高田好胤和上をそう評するのは、薬師寺執事長の大谷徹奘さん。その語り口は情熱とユーモア、涙が入り交じり、惹き込まれました。昭和の名僧の素顔だけでなく、周囲の人や環境に非を求めがちな現代人に必要な心得を教えられます。

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