1 月号ピックアップ記事 /対談
万事は勝利のためにある 藤波俊一(日本体育大学レスリング部コーチ) 藤波朱理(パリ2024オリンピックレスリング女子53kg級金メダリスト)
2024年盛夏、遠くパリの都で一組の日本人親子が世界を刮目させた。レスリング女子の藤波朱理選手が初出場にして破竹の勢いで金メダルを獲得。中学時代から途切れない公式戦連勝記録を137に伸ばした。そのコーチであり、2021年に教職を辞して地元三重から上京、娘の夢に人生を懸けてきた父・藤波俊一氏と喜びを分かち合った。勝利へのあくなき執念で結ばれた二人の強さの源を探る。
「すべてのことに意味がある」って私は思っているんです
藤波朱理
パリ2024オリンピックレスリング女子53kg級金メダリスト
――この夏のパリ五輪をテレビで観戦し、他を寄せつけない圧倒的な闘いぶりに感嘆しました。初出場での金メダル獲得、おめでとうございます。
〈藤波朱理(以下、朱理)〉
ありがとうございます。
優勝の瞬間は、間違いなくいままでの人生で一番幸せな瞬間でした。日の丸が揚がり、君が代が流れ……この景色をこの先忘れることはないだろうな、って直感しました。
この数年間、パリで優勝すること、その時に目に映る景色をずっとイメージして闘ってきたんです。それが、本当に目の前に現れた! という感覚でしたね。
今回は4試合あって、どれも世界で勝ってきた実績のある選手が相手でした。特に決勝でぶつかった世界ランキング1位、エクアドルのジェペスグスマン選手は一番意識していた選手です。2023年の世界選手権で勝ったことはありましたけど、もう一度徹底的に研究して、対策しました。決勝でその成果が出てよかったです。
「ようやってくれた!」という気持ちでしたね。私自身、もう後がない状態ですから、やったぞ、人生の大一番に勝ったぞ、と
藤波俊一
日本体育大学レスリング部コーチ
〈藤波俊一(以下、俊一)〉
前回は初め両脚タックルを受けて5ポイント取られてから逆転しましたけど、今回は脚を触らせることもなく10対0で圧勝してくれました。
私は朱理がレスリングを始めてからずっと成長を見てきました。パリでの優勝はずっと目指してきた目標ですから、金を獲ってくれて、親としても、コーチとしても嬉しかったですね。
〈朱理〉
自分一人の力で闘ったという感覚は全然なくて、父をはじめ皆で闘って、勝ち取ったメダルだと思っています。
〈俊一〉
私は初戦が気になっていたんです。この大会の前、朱理は怪け我がで世界大会を二つ欠場していて、ブランクがありました。減量もしますので、初戦でどんな闘いをするかで仕上がりが分かるわけです。
相手は2022年の世界選手権のチャンピオンでした。ここを6対0で勝ってくれたので「調子いいな。大丈夫だ」と。次も大差で勝って、その時点で金はいけるな、と内心は確証を得ていました。
〈朱理〉
「オリンピックには魔物がいる」とよく言われますが、自分自身の試合では、特に感じませんでした。
でも過去の先輩たちの闘いを見た時、実力通りにいかない世界なのかな、とは思いました。実際、観客席をはじめ、大会の盛り上がりはこれまでの経験の中で一番でした。実力だけでは勝てない、運も非常に大事になるのがオリンピックだと思います。それでも勝てるよう、運を引き寄せるくらいの準備を積み重ねたつもりです。
~本記事の内容~
◇弱冠20歳、無敗の裏に油断なし
◇レスリング不毛の県立高校での挑戦
◇初めは決して強くはなかった
◇「お父さん、私を強くしてください」
◇強くなるのは勝つからこそ
◇オリンピックに繋がる道だけを選ぶ
◇娘の夢に人生を懸ける決断
◇予期せぬ怪我と病気に見舞われて
◇「すべてのことに意味がある」を信条に
◇恩返しのレスリング
プロフィール
藤波俊一
ふじなみ・としかず――昭和39年三重県生まれ。62年日本体育大学卒業後は三重県立いなべ総合学園高校に赴任し、レスリング部設立。ソウルオリンピック日本代表候補選手。平成7年ジュニア選手のための「いなべクラブ」(現いなべレスリングアカデミー)を開設し、世界チャンピオンはじめ数々の選手を育成。令和3年母校日体大レスリング部のコーチとなる。
藤波朱理
ふじなみ・あかり――平成15年三重県生まれ。いなべ総合学園高校卒業、令和4年日本体育大学入学。父・俊一氏の下、4歳からレスリングを開始。令和2年全日本選手権、3年全日本選抜を制し、同年の世界選手権を高校3年生で制覇。6年初出場となるパリ五輪レスリング女子53kg級で優勝。中学2年生より公式戦無敗を保ち、同大会優勝を以て連勝記録を137に伸ばす。
編集後記
パリ五輪での歓喜から約3か月──秋晴れとなった11月7日の朝9時より日体大世田谷キャンパスのレスリング場で、藤波俊一さんと藤波朱理さんの親子対談は行われました。弱冠20歳で五輪初出場金メダル獲得、中学時代から公式戦無敗の137連勝。これらの記録はいかにして生まれたのか。そこには父と娘の深い愛で結ばれた二人三脚の歩み、並外れた努力と心懸けの結晶がありました。
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