それでも人生に微笑む ~消えそうないのちを守り続けて50年~ 塩澤研一(公益財団法人いのちの森文化財団代表理事) 塩澤みどり(公益財団法人いのちの森文化財団副代表理事)

標高1000メートルの信州・飯綱高原に広がる癒やし、気づき、学びのコミュニティ「いのちの森『水輪』」。夫婦で代表を務める塩澤研一氏とみどり氏の活動の原点は、出産時のトラブルで最重度の障碍を負った愛娘の誕生だった。このいのちを授かった意味は何なのだろうか──。消えそうないのちを懸命に守りつつ、答えを求めて歩み続けてきた二人が見出したものとは。

「いま、ここ、自己。いま、ここ、自己」と心を引き戻す訓練を懸命に繰り返しているうちに、「いま、ここ、自己」が「いま、ここ、愛」になって、愛に満たされていくんだということが分かってきたんです

塩澤みどり
公益財団法人いのちの森文化財団副代表理事

〈みどり〉
早穂理は言葉を話すことができなくて、ただ「あーあー、うーうー」という声を発するだけなんです。

だから彼女が訴えていることを察するためには、心を本当に澄まして、言葉にならないいのちの音を聴けるようにならないとダメだと思ったんですね。

そのためにどうしたらいいんだろうって随分考えたんですが、ある時ふと、テレビは線で繋がっていなくても遠くの映像をアンテナでキャッチする。あ、心も同じだなと思ったんです。

早穂理が発する周波数に私が合わせられるようになっていかないと、この子は生きられない。よその健康な子を見て「あの子はいいな」「早穂理は何でこんなふうに生まれちゃったんだろう」って心を乱していたら大事なことを取り逃がしてしまう。

そう考えて、心が乱れる度に「いま、ここ、自己。いま、ここ、自己」と心を引き戻す訓練を懸命に繰り返してきました。それをやり続けているうちに、「いま、ここ、自己」が「いま、ここ、愛」になって、愛に満たされていくんだということが分かってきたんです。

苦しいと思ったことは一度もないんです。もちろん大変ではありましたけど、その中でも意識して考えてきたことは、起こることには必ず意味があるということ。

その意味を追求していくと、必ず答えが出てくるんです

塩澤研一
公益財団法人いのちの森文化財団代表理事

〈研一〉
こんな話をすると、僕たちがさぞかし険しい茨の道を歩いてきたような印象を持たれるかもしれませんけど、苦しいと思ったことは一度もないんです。

もちろん大変ではありましたけど、その中でも意識して考えてきたことは、起こることには必ず意味があるということ。その意味を追求していくと、必ず答えが出てくるんです。

きょうまでの僕たちの人生は、最重度の障碍を背負って生まれてきた彼女と向き合い、このいのちを授かった意味は何だろうかと、答えを求め続けてきた人生でもありました。

10歳くらいまでしか生きられないと言われていた早穂理のいのちの灯が、きょうまで50年近くも点り続けるなどとは考えも及びませんでしたが、おかげで本当にたくさんのことを学ぶことができました。

僕たちはもう77歳ですので、今後はこの学びを次の世代にいかにバトンタッチしていくか。このことに真剣に取り組んでいきたいと考えています。

……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇マイナスの考え方をプラスに
◇運命の子 早穂理の誕生
◇僕たちがやるべきなのはこれではない
◇もう一度できることがあるのではないか
◇稲盛塾長から学んだ成功の秘訣
◇「応援して報われた」と言われる生き方を
◇4度にわたる危篤状態を乗り越えて
◇自己を深めいのちを輝かせて生きるために
◇「いま、ここ、自己」から「いま、ここ、愛」へ
◇早穂理はすべてを教えてくれる先生
◇愛といのちを育む思いやりの輪を広げていきたい

本記事では全10ページ(約13,000字)にわたって、塩澤研一さんと塩澤みどりさんの対談を掲載しています。

プロフィール

塩澤研一

しおざわ・けんいち――昭和22年長野県生まれ。前頭葉脳損傷という重度の障碍を負った娘・早穂理の養育体験を踏まえて様々な社会活動を展開。平成4年水輪の会を設立し、心と体といのちを大切にする実践活動を展開。18年いのちの森文化財団を設立。23年公益財団認可。㈱水輪ナチュラルファーム代表取締役。㈲グリーンオアシス代表取締役。いのちの森クリニック事務局長。

塩澤みどり

しおざわ・みどり――昭和22年長野県生まれ。出生時に前頭葉脳損傷という重度の障碍を負った娘・早穂理との生活の中で、様々な葛藤を体験。平成4年水輪の会設立を出発点に、心と体といのちを大切にする実践活動を展開。18年いのちの森文化財団を設立。23年公益財団認可。水輪の会代表。いのちの森クリニックカウンセラー。


編集後記

長野県飯綱高原にある43,000坪の広大な敷地で農園や宿泊施設、自然食レストラン、クリニック、全寮制フリースクールなどを運営する「いのちの森『水輪』」。木々の葉が色づき始めた10月31日に訪ねると、塩澤研一さん、みどりさんご夫妻がスタッフの皆さんと共に温かく迎えてくださいました。最重度の障碍を抱える愛娘から教わったいのちを輝かせて生きるヒントは涙なしには読めません。

2024年12月1日 発行/ 1 月号

特集 万事修養

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