1 月号ピックアップ記事 /インタビュー
薬師寺東塔解体修理を通して知った工人の心 石井浩司(薬師寺宮大工)
「やるならば、創建当時の工人の心になってやりなさい」。〝薬師寺の鬼〟と畏れられた西岡常一棟梁が若き日の石井浩司氏に伝えた言葉である。薬師寺の伽藍や回廊の修復に携わって35年間、石井氏は師の言葉を胸に宮大工の仕事に打ちこんできた。東塔の大規模修理が終わったいま、氏はこの言葉をどのように受け止めているのだろうか。人生を振り返りながらお話しいただいた。【写真=西岡常一棟梁(左)の話に耳を傾ける石井氏。優しいが威厳のある師匠だったという】
登りというのは一直線じゃないんです。山道のようにクネクネと曲がっていて、「ああやっとここまで辿りついた」と思って顔を上げると、遥か先に新しい目標が見えてくる。
その目標に向かって迷わずに歩いてきた。そのことだけは胸を張って言えるかなと思います
石井浩司
薬師寺宮大工
――1300年の歴史を刻む国宝・薬師寺東塔の全面解体による保存修理事業が2021年に完了しました。石井さんは宮大工としてその修理作業に携わってこられたと聞いています。
〈石井〉
東塔は薬師寺で唯一、創建当初から現存している建物で、長い歴史の中で幾度となく修理が施されてきました。近年の調査でとりわけ塔を支える心柱の痛みが激しいことが分かりましてね。文化庁や奈良県の主導のもと、2009年から塔を全面的に解体して組み直すという大規模な修理が行われてきたんです。
約110年前、明治期にも大規模な修理が行われてはいましたが、全面解体ということになると史上初。宮大工として長年、薬師寺の伽藍や回廊の修復に携わってきた僕としても2023年、無事に東塔の落慶法要を迎えられたことは感無量でした。
――石井さんの薬師寺とのご縁はどのようなものでしたか。
〈石井〉
宮大工になりたいと思ったことは実は一度もなくて、もともとは岡山の工務店の息子なんです。小学5年生くらいから現場に連れ出されて14歳、昔でいう元服の年に祖父から「きょうからおまえは俺の弟子だ」と。それで弟子入りの儀式を受けて、他の住み込みの弟子たちと共に家の離れで共同生活をするようになったんです。
――中学生の頃から住み込みの生活を。
〈石井〉
まぁ、……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~
◇史上初の全面解体修理に携わって
◇忘れ難い西岡常一棟梁の教え
◇東塔解体での驚くべき発見
◇家族の闘病を通して分かったこと
◇どのような体験からも学ぶことがある
プロフィール
石井浩司
いしい・ひろし――昭和35年岡山県生まれ。14歳で大工の棟梁であった祖父に弟子入りし、29歳まで岡山県倉敷市で働く。平成2年薬師寺の復興を担当していた池田建設薬師寺出張所に入所。西岡常一棟梁の元で、宮大工の修業を始め、大講堂・回廊などの復興に従事する。17年に池田建設を退職し、薬師寺奉職の宮大工として、国宝東塔の解体修理に携わる。
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