2 月号ピックアップ記事 /対談
日本の防衛はこれでいいのか 織田邦男(元航空自衛隊空将) 番匠幸一郎(元陸上自衛隊陸将)
日本を取り巻く安全保障の現状は年々厳しさを増すばかりである。一方、それに対する国民の危機意識は極めて低いという他ない。私たちは直面する危機をいかに克服し、2050年に向けて、どう未来をひらいていくべきなのか。航空自衛隊空将を務めた織田邦男氏(写真左)と陸上自衛隊陸将を務めた番匠幸一郎氏(写真右)に、指揮官としての長年の経験を踏まえて語り合っていただいた。
私がいま日本に必要と考えるのは、失われた公の復活です。本来、人のために尽くすのは心地よいことであり、幸せなことなのです。
公の精神を復活させることで、若者の心を甦らせることができるんです
織田邦男
元航空自衛隊空将
〈番匠〉
織田先輩との対談というので、とても楽しみにしてまいりました。自衛隊では1期違えば大変な違いなのに、織田先輩は6期も先輩で仰ぎ見るような存在なので、本日は胸をお借りする気持ちです。どうぞよろしくお願いいたします。
〈織田〉
いや、5期以上違えばもう友達のようなものですよ(笑)。
最初にお会いしたのは2004年、番匠さんが第一次イラク復興支援群長として自衛隊イラク派遣に参加された時でした。当時、私は航空自衛隊の防衛部長として航空部隊の派遣の責任者だったのですが、番匠さんは任務を終えて帰国すると、私のところに挨拶に来られたのでしたね。
何しろ「陸(陸上自衛隊)に番匠あり」と言われるほどの人だから、初対面で「さすがに大人物だ」と感じました。話は要を得ているし、礼儀作法も素晴らしい。航空自衛隊にはなかなかいないタイプですよ。
〈番匠〉
いや、汗顔の至りです。あの時はイラク派遣で何かとお世話になったことへのお礼を申し上げたかったんです。
国の機関である統計数理研究所の調査によると、「もう一度生まれ変わったら日本人に生まれるか」という質問に83%がイエスと回答しているんです。国のために戦う意識が低い一方で、これも見落としてはいけない大事な側面だと思います
番匠幸一郎
元陸上自衛隊陸将
〈織田〉
今回の特集テーマが哲学者・森信三先生が語られた「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」という言葉によるものだと聞いて共感しましたが、その言葉はあくまでも「若者がしっかり教育されている」ことを前提としたものだと思うんです。
番匠さんもそうでしょうが、自衛隊ではコンビニでたむろしているような、国歌も歌えない若者をゼロから教育し直す。すると彼らは見違えるように成長します。要するに教育を受ける場がそれまで与えられなかっただけなんですね。
〈番匠〉
その通りですね。私は入隊した若者に「私か公か、個人か集団か、自由か規律か、権利か義務か、楽しいことか厳しいことか」という対立概念を話してきました。
「君たちはこれまで、私という個人の自由や権利、楽しいことの中で過ごしてきたかもしれない。しかし、これからは逆に、公のために、集団で、規律、義務が求められる中で任務を果たさなければならない。そのためにも強くなくてはいけない」と。
また、入隊したばかりの隊員たちの中には、直立不動の姿勢ができない、相手の目を見て話せない、大きな声が出せないという者も多くいます。しかし、1週間も訓練すれば皆ができるようになるんですね。これまで教えられていなかっただけです。自衛官の職務以前に、一人の人間として何が大事であるか。それが自衛隊が組織として重視していることだと思います。
……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容
◇イラク派遣を通して深まった縁
◇「最大の国防は、よく教育された市民である」
◇公の精神をいかに取り戻すか
◇国際情勢を捉えるための2つの視点
◇日本を蝕むオストリッチ・ファッション
◇独裁者は有言実行
◇日本の底力をいかに発揮させるか
◇勇怯の差は小なり、責任感の差は大なり
◇何より大切なのは一人ひとりの目覚め
プロフィール
織田邦男
おりた・くにお――昭和27年愛媛県生まれ。49年防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊。F4戦闘機パイロットなどを経て、58年米国の空軍大学へ留学。平成2年第301飛行隊長、4年米スタンフォード大学客員研究員、11年第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長などを経て、17年空将。18年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部隊指揮官)。21年航空自衛隊退職。東洋学園大学客員教授を経て現在麗澤大学特別教授。著書に『空から提言する新しい日本の防衛』、共著に『日本を滅ぼす簡単な5つの方法』(共にワニ・プラス)など。
番匠幸一郎
ばんしょう・こういちろう――昭和33年鹿児島県出身。55年防衛大学校卒業、陸上自衛隊入隊。第一線部隊勤務などを経て、平成12年米国陸軍戦略大学卒業。第三普通科連隊長兼名寄駐屯地司令、第一次イラク復興支援群長、幹部候補生学校長、陸上幕僚監部防衛部長、陸上幕僚副長、西部方面総監などを歴任し、27年退官。30年まで国家安全保障局顧問。現在は防衛大臣政策参与、拓殖大学特任教授、政策研究大学院大学客員教授、全日本銃剣道連盟会長などを務める。共著に『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書)『失敗の本質を超えて』(日本経済新聞出版)など。
編集後記
日本人が置き去りにしてきた「公の精神」をいかに復活させていくか――。航空自衛隊、陸上自衛隊でそれぞれ組織を統率してこられた織田邦男さん、番匠幸一郎さんの共通した思いです。我が国の安全保障を考えていくと、日本人の意識のあり方に行き着くといいます。緊迫化する国際情勢を憂慮する時、「防衛は防衛省や自衛隊だけではなく、国民皆の仕事」という言葉が重く響きます。
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