一筋の道を歩み見えてきたもの 青山俊董(愛知専門尼僧堂堂頭) 山川宗玄(臨済宗妙心寺派管長)

5歳から仏門に入り、80年以上、求道一筋に生きてこられた青山俊董師(左)。日本一厳しいとされる禅の専門道場・正眼寺の師家であり、4月に臨済宗妙心寺派管長に就任された山川宗玄師(右)。宗派こそ異なるものの、無窮なる道を求めて歩を進められる両老師の体験談や言葉は、禅や仏教に留まらず、私たちの仕事や人生にも通じるものがある。滋味溢れる両老師の話から、生きる上での要訣を掴み取りたい。

道無窮の思いで一歩でも半歩でも自分を深めさせていただきたい、人々に本当の意味での幸せは何かをお伝えしたい。

そして、2500年存続していただいた教えを弱めず、歪めず次の世代に伝えていきたい。

そういう誓願を抱きながら、これからも命ある限り歩いていきたいと思っております

青山俊董
愛知専門尼僧堂堂頭

〈山川〉 
きょうは遠路、京都の妙心寺まで足をお運びいただき、恐縮いたしております。

〈青山〉 
とんでもないことでございます。山川ご老師は4月に臨済宗妙心寺派管長に就任され、お忙しい毎日をお過ごしのことかと思います。91歳の私にとりましては息子のようなもので、大きなお役目を果たされていることをとても嬉しく思っているところです。

〈山川〉 
いや、私も今年で75歳になりますので、おっしゃるほど年齢の開きはございません(笑)。

管長に就任して2か月が経ったところですが、実を申せば管長就任の話は何度もお断りしておりました。私は岐阜の正眼寺の住職や正眼短期大学学長の他にも、福井と和歌山の寺の住職を務めておりますので、管長を引き受けることは難しい状況でした。ただ、どうしてもということでしたので、これらを続けさせてもらうことを条件にお引き受けしたのです。

禅に限らず仏教の教えの根本は「自未得度先度他(じみとくどせんどた)」、つまり「自分は未だ(彼岸に)渡らざるに、まず他を渡す」ということだと思います。

そういう生き方ができる出家者が増えていけば、世の中は随分よくなるはずです

山川宗玄
臨済宗妙心寺派管長

〈山川〉
いまつくづく思うのは、また雲水(修行僧)に戻ったな、そして雲水そのものがきょうの自分であるという、その一点ですね。雲水の修行のように、何か要請があれば「はい」とその役目を受け実践する姿勢を、管長になったいま改めて自らに課しています。

実はいまから50年ほど前の昭和51年から2年間、私はこの妙心寺で雲水という立場で梶浦逸外老師の隠侍(師家に直接仕え、日常の世話をする僧のこと)をさせていただいておりました。当時、このような立場になるとは予想もしておりませんでしたが、自分でその道を願い望んだわけではないのに、導かれたというのが何とも不思議な気がしています。

〈青山〉 
人の上に立つ立場ほど勉強になりますし、逆に育てていただいていることを強く感じることが多くあります。私も愛知専門尼僧堂に勤めるようになって60年あまりが経ち、49歳から今日まで堂頭というお役目をいただいておりますけど、雲水たちに育てられながら歩むことができたと心からそう実感しております。

……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
▼雲水に戻って管長の役割を果たす
▼渡すより渡されっぱなしの人生
▼くだり坂にはくだり坂の風向がある
▼迷いを認めてもらえる世界を求めて
▼よき師縁に恵まれて
▼自分の思いを超えて導かれる世界がある
▼心身の限界の中で掴んだ世界
▼師を殺すほどの気迫で向き合う
▼仕事は仕事から学ぶ
▼現代に生かすべき禅の教え
▼限りない道を歩き続ける

プロフィール

青山俊董

あおやま・しゅんどう――昭和8年愛知県生まれ。5歳の時、長野県の曹洞宗無量寺に入門。駒澤大学仏教学部卒業、同大学院修了。51年より愛知専門尼僧堂堂頭。参禅指導、講演、執筆のほか、茶道、華道の教授としても禅の普及に努めている。平成16年女性では2人目の仏教伝道功労賞を受賞。21年曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。令和4年曹洞宗大本山総持寺の西堂に就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『一度きりの人生だから』(海竜社)『泥があるから、花は咲く』(幻冬舎)『あなたに贈る人生の道しるべ』(春秋社)など多数。

山川宗玄

やまかわ・そうげん――昭和24年東京都生まれ。埼玉大学理工学部卒業。49年野火止平林僧堂の白水敬山老師について得度。同年正眼僧堂に入門。平成6年正眼寺住職、正眼僧堂師家、正眼短期大学学長。令和6年4月より全国約3300寺を擁する大本山妙心寺派管長に就任。著書に『生きる』『無心の一歩を歩む』『無門関提唱』(いずれも春秋社)『禅の知恵に学ぶ』(NHK出版)『くり返し読みたいブッダの言葉』(リベラル社)など。


編集後記

5歳の時から85年以上にわたり禅の修行に打ち込んでこられた愛知専門尼僧堂堂頭の青山俊董さんと、日本一厳しいとされる正眼専門道場の師家で、3,300の寺院を擁する臨済宗妙心寺派管長にこの度就任した山川宗玄さんにご対談いただきました。混迷を極めるいまの世の中にあって、仏法を継承し広めると共に、次の世に正しく伝えんと命懸けで歩まれる両老師の気迫に圧倒されます。

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