10 月号ピックアップ記事 /エッセイ
武者小路実篤——理想に向かい歩み続けた人生に学ぶ 伊藤陽子(武者小路実篤記念館副主幹・首席学芸員)
「この道より我を生かす道なし この道を歩く」。本誌今号の特集テーマに掲げた名言でもつとに有名な文豪・武者小路実篤。生涯に執筆した作品は7,000篇を超え、活動は文筆にとどまらず、書画、そして「新しき村」の創設にも及んだ。己の理想に向かい、ひたすら歩み続けた実篤の横顔について、武者小路実篤記念館の伊藤陽子氏に伺った。
「ふまれても、ふまれても、我はおき上るなり
青空を見て微笑むなり、星は我に光をさづけ給うなり」
武者小路実篤
(むしゃこうじ・さねあつ)
©国立国会図書館「近代日本人の肖像」
1885(明治18)年~1976(昭和51)年。小説家、詩人、劇作家。東京府生まれ。学習院初・中・高等学科に学び、東京帝国大学哲学科社会学専修へ進んだが、1年ほどで退学。明治43年志賀直哉らと雑誌『白樺』を創刊。大正7年「新しき村」を創設。昭和26年文化勲章受章。代表作に『お目出たき人』『友情』『人間万歳』『人生論』『真理先生』など。
伊藤陽子
武者小路実篤記念館副主幹・首席学芸員
『友情』『人間万歳』『真理先生』などの名作で知られる文豪・武者小路実篤。彼が晩年を過ごした東京都調布市にある「武者小路実篤記念館」の学芸員を務めて、早38年が経ちます。
実篤の小説は中・高生の頃から読んでいましたが、当時の私はごく普通の読書好きに過ぎず、その人となりについては一般的な知識しかありませんでした。大学では中世の歴史を専攻し、学芸員を志していたところ、ご縁があって4年次の10月に開館した当記念館からお話をいただきました。専門とは異なるため随分悩みましたが、きっと取り組む価値があると考え、思い切って飛び込んでみることにしました。
研究を始めて驚いたのが、実篤の仕事の量と幅、影響範囲の広さです。たった一人の人物を対象にしているにも拘(かかわ)らず、いまもハッとさせられるような新しい発見がある。学芸員として幸せな出会いだったと思っています。
そんな実篤の魅力をもっと多くの方に知っていただきたい。常々抱いてきた思いが一つの形になったのが、一昨年に当記念館より刊行した『武者小路実篤名言集 生きるなり』です。
実篤の言葉といえば、「仲よき事は美くしき哉」など、あの素朴な筆致で描かれた書画を思い浮かべる方も多いと思います。おおらかな作風で知られますが、それはあくまでも実篤の一面に過ぎず、若い頃の言葉には驚くほど激しいものもたくさんあります。
(中略)
実篤の言葉を「上から目線で説教くさい」「前向き過ぎて重たい」などと敬遠する向きもあります。けれども私が人物と作品に長い間向き合ってきて実感するのは、彼の言葉は他人にではなく、すべて自分自身に向けたものであるということです。そう思って読めば、武者小路実篤という人物の印象は一変するのではないでしょうか。
……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇他人にではなく自分自身に向けた言葉
◇この子は世界に一人という人間になる
◇「10年後を見よ」発刊を続けた『白樺』
◇新しき村で追求し続けた理想
◇最晩年まで繰り返し綴った言葉
本記事では伊藤さんに、これまで一般に流布してきた武者小路実篤のイメージを一新する、颯爽とした生き方について熱を込めて語っていただきました。
プロフィール
伊藤陽子
いとう・ようこ――東京都生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業後、調布市武者小路実篤記念館の学芸員に。現在、同館の副主幹、首席学芸員。令和4年同記念館より刊行された『武者小路実篤名言集 生きるなり』の編集を務める。
編集後記
本号の特集テーマは文豪・武者小路実篤の言葉に由来します。武者小路実篤記念館副主幹の伊藤陽子さんにお話しいただいた実篤の実像に、書画から受ける一面的なイメージは大きく覆されました。己の理想に向かい、ひたすらに努力と実践を重ね続けた実篤の歩みに学びます。
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