10 月号ピックアップ記事 /エッセイ
この世から僕の仕事がなくなる日を目指して ~教育相談の現場から~ 奥田健次(学校法人西軽井沢学園創立者・理事長)
不登校や暴力など、我が子の問題行動に手を焼き、悩みを抱え込む親は数知れない。そんな現代にあって、「行動の問題なら必ず変容できる」と言い切るプロフェッショナルは、これまでの30年で実に2万数千件の相談に応じてきたという。近年は全財産を寄付して長野県に学校法人を設立し、この春、さやか星小学校を開校。道なき道を踏み分けて、社会に一石を投じる奥田健次理事長の信念に迫る。
正しい仕事をしていると、子どもの行動は確実に変わるし、親御さんが喜んでくれる。この仕事だけは、純粋で正直でした
奥田健次
学校法人西軽井沢学園創立者・理事長
誰にも忖度することなく、理想とする教育ができる学校を自分でつくってしまおう――。
どこの大学、病院、施設にも属さない〝流し〟の臨床家だった僕が、長野県御代田町に保有していた別荘の真ん前、5千坪の敷地を購入し、学校法人を設立。大赤字も構わず2018年に設立したサムエル幼稚園では、日本で初めて「行動分析学」を基盤にした理想の教育を形にし、全国から教育関係者の視察が後を絶たない園になりました。
そしてこの春、佐久市の廃校を活用して開校した「さやか星小学校」は一学期を終えたところですが、既に僕の想像を超える成果を上げています。1年目の児童数は22名、定型発達の子が通う私立小学校ですが、いわゆるギフテッドと呼ばれる子も通っています。その中に、ひときわ「拗ね」がひどい男の子がいました。
数ある子どもの問題行動の中でも特に習慣化しやすく、放置すると社会不適応を起こしやすいものの一つが拗ねです。たまに、そんな態度を許容する人がいるものですから、たいていは長く続く問題ですし、専門家も「性格」のせいにして治し方を知りません。
課題が多いと聞いていた彼と対峙したのは6月頭、アメリカ出張から帰った直後です。理事長である僕は出校日、皆を喜ばせようと、お土産に買った「I♥NY」の文字の入った鉛筆を、一人ずつ配っていた、その時です。彼だけが「要らない」と言わんばかりに顔を背け、片手でズイッと鉛筆を返してきたのです。
普通の学校の先生なら「何で要らないの?」とあれこれ理由を聞いて渡そうとするかもしれません。行動の原理で言うと、最悪です。ますます反発を呼び、拗ねや抵抗する行動を〈強化〉するからです。
ただ、これを見過ごしても大人の負けです。僕は他の児童が「やった~!」と喜ぶ中、彼の鉛筆を無言で回収し職員室へ直行。考えを巡らしました。本校は行動分析学に基づいて子どもを伸ばす学校です。日常の些細な出来事が、教育の絶好のチャンスになるのです。
……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇叱責や体罰は要らない
◇意に沿わなくても〝父親〟に従う
◇臨床の道を貫き通す決意
◇どんな行動でも変容できる
◇子育ての借金を返し、よき方向に貯金させる
◇悲観の中にある希望
各種メディアで注目を浴びる奥田健次さん。一風変わった出で立ちと診療スタイルで、〝子育てブラックジャック〟と呼ばれています。明かされる過去、確固たる信念に惹きつけられます。
2024年4月、私財を投じて廃校を買い上げ、立ち上げた「さやか星小学校」開校式にて。
左から、小園拓志御代田町長、羽田次郎参議院議員、井出庸生衆議院議員、青木高光校長、本人、栁田清二佐久市長、伊藤孝恵参議院議員、金子道仁参議院議員。その他、ビデオレターで宮路拓馬衆議院議員らが祝辞を述べた。
プロフィール
奥田健次
おくだ・けんじ――昭和47年兵庫県出身。専門行動療法士、臨床心理士。大学院在学時より出張教育相談を開始。平成11年、内山記念賞(日本行動療法学会)を受賞。15年、日本教育実践学会研究奨励賞受賞。20年、第4回日本行動分析学会賞(論文賞)を受賞し、行動科学系の二大学会で初の両賞受賞者となる。24年大学を早期退職し、私財を投じて長野県に学校法人西軽井沢学園を創立。30年4月、サムエル幼稚園を開園。令和6年4月、さやか星小学校を開校。著書に『メリットの法則』(集英社新書)ほか多数。
編集後記
異端児と呼ばれながらも、子供の問題行動をたちどころに改善へ導く手腕で、見る者を驚嘆させる奥田健次さん。先般発刊した『致知別冊「母」2024』に続くご登場です。歯に衣着せぬ物言いは真剣に親子の未来や幸せを考えるがゆえ。その教育への思いが行間から伝わってきます。
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