人類の未来を拓くがん治療への挑戦 小林久隆 (アメリカ国立衛生研究所主任研究員) 北尾吉孝(SBIホールディングス会長兼社長)

がん細胞だけを破壊し、免疫細胞を活性化する――そんな夢のような画期的治療法が既に実用化されている。
「第五のがん治療」と呼ばれる〝光免疫療法〟だ。世界に先駆けて日本で承認され、保険適用が始まった。
さらに研究が進展し、適応拡大されれば、8~9割の固形がんを治療でき、転移や再発もなくなるという。
開発者である小林久隆氏とその活動を支援する北尾吉孝氏に、光免疫療法の現状と今後の可能性、開発に至るまでの道のり、成否を分けるものについて語り合っていただいた。
ノーベル賞級の世紀の大発見により、がんの苦しみや悲しみから人類が解放される日は近いかもしれない。

研究者はアスリートに近いと考えています。トレーニングをやめたら皆に抜かれてしまう。

それと同じで、日々研鑽を積み重ねなければトップに立ち続けることはできません。

私は常に研究のことが頭にあり、意識の面で一度も休んだことはないんです

小林久隆
アメリカ国立衛生研究所主任研究員

〈北尾〉
『致知』の読者に向けて、光免疫療法が一体どういうものかご説明いただけますか?

〈小林〉
従来のがん治療は外科手術、抗がん剤、放射線の三大治療と呼ばれるものですが、これらはがんだけではなく、正常な細胞や臓器もダメージを受けてしまうデメリットがありました。それに対して光免疫療法は正常な部分をほとんど傷つけず、光を使ってがん細胞だけを壊します。

どうやってそれが可能になるかと言うと、先ほど北尾社長がおっしゃった通り、鍵を握るのはIR700という化学物質と近赤外線です。近赤外線は身近なところだとテレビのリモコンにも使われているような無害安全な種類の光。IR700は道路標識や東海道新幹線の車体の青色の塗料に使われているフタロシアニンという色素を水溶性にしたもの。

がん細胞の表面には他の正常細胞にはない特有のタンパク質(がん抗原)が数多く存在していて、そのがん抗原と結合するタンパク質(抗体)にIR700をくっつけます。この複合体をナノ・ダイナマイトと呼んでいるのですが、それを薬剤として点滴で投与します。

体内のがん細胞と結合した後、直径一ミリの光ファイバーを患部に刺し込み、近赤外線を数分間照射するとIR700が化学反応を起こし、結合している抗体の形状を物理的に変化させることでがん細胞の細胞膜に無数の穴が開き、がん細胞が内部破裂していく。

要するに、がん細胞だけに無数のダイナマイトを仕掛け、近赤外線の光エネルギーで起爆スイッチをオンにし、がん細胞を破壊するという仕組みなんです。

「蘧伯玉(きょはくぎょく)、行年五十にして四十九年の非を知り、六十にして六十化す」(『淮南子』)

私もいま73歳ですが、常に新しい知識を吸収し、肉体的にも精神的にも自分を変えていく。

人間は幾つになっても自己維新・自己進化を心懸けていかなければならないと思っています

北尾吉孝
SBIホールディングス会長兼社長

〈北尾〉 
小林先生にお会いした後、光免疫療法の開発を進めている楽天アスピリアン社(現・楽天メディカル社)への投資を決め、これまでSBIグループとして約65億円を出資してきました。

もちろん今後もサポートしていこうと考えていますが、私が投資するか否かを判断する際に最も大切にしているのはやはり品格です。この人は信用できるか、本気かどうか、志があるか、私利私欲のためじゃないか、こういうところを直観で感じ取っているんです。

その点、小林先生はまさしく志の人だなと。「志ある者、事竟(つい)に成る」と『後漢書』にありますが、先生は人類をがんから救うという壮大な志を持ってやられている。がん治療の新薬「オプジーボ」を開発し、ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑(ほんじょたすく)先生もこの言葉を座右の銘にされていて、超一流の科学者はやはり共通するものがあるなと感じました。

また、諸葛孔明が五丈原の戦いで陣没する前、八歳の息子・諸葛瞻に宛てた遺文の中に、こういう一節があります。

「澹泊に非ざれば以もって志を明らかにするなし」

私利私欲にこだわらず、さっぱりとした淡泊な人柄でなければ、志を果たすことはできない。志というのは壊れやすいから、それを常に明らかにするには私利私欲を捨てることが大事だと言っているわけですね。「有志竟成」と「澹泊明志」、この2つの言葉は小林先生にぴったりだと思います。……(続きは本誌をご覧ください)

 ◇オバマ大統領の演説が邂逅のきっかけ
 ◇「有志竟成」と「澹泊明志」の人物
 ◇「第五のがん治療」光免疫療法とは
 ◇転移がんを破壊し、がんの再発を防げる未来
 ◇5年以内には8~9割のがんが治る!?
 ◇発想の原点は京大での研究生活
 ◇臨床医としての挫折 志一つで研究医に転身
 ◇実験に失敗はない~光免疫療法の誕生秘話~
 ◇強固な信念と柔軟な融通さ
 ◇絶えず自己維新し、休まず続ける

本記事では全10ページ(約13,000字)にわたって、小林久隆さんと北尾吉孝さんの対談を掲載しています。
お二人が実体験を踏まえて語り合った、挫折や苦難を乗り越えて志を成就するヒントとは――。

プロフィール

小林久隆

こばやし・ひさたか――昭和36年兵庫県生まれ。62年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院に放射線科の臨床医として勤務。平成7年京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。同年、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に3年間留学。京都大学医学部助手を経て、13年再渡米し、NIHの研究員となる。17年主任研究員。23年光免疫療法の論文が米医学誌『Nature Medicine』に掲載される。令和4年関西医科大学附属光免疫医学研究所所長に就任。著書に『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』(光文社新書)、医学監修として『がんの消滅』(新潮新書/芹澤健介・著)。

北尾吉孝

きたお・よしたか――昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。11年ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)を設立、代表取締役社長に就任。現在、SBIホールディングス会長兼社長。著書に『何のために働くのか』『強運をつくる干支の知恵』『人間学のすすめ』(いずれも致知出版社)など多数。


編集後記

「第五のがん治療」「ノーベル賞級の大発見」と呼ばれる光免疫療法をご存じでしょうか。がん細胞だけを破壊し、免疫細胞を活性化する画期的な治療法を生み出したのが、アメリカ国立衛生研究所主任研究員の小林久隆さんです。この研究の可能性と小林さんの人間性に惚れ込み、出資を続けるSBIホールディングス社長の北尾吉孝さんとの対談から見えてくるがん治療の未来に興味は尽きません。

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