5 月号ピックアップ記事 /エッセイ
名僧・鈴木正三に学ぶ 勤勉努力の精神 小林 誠 (鈴木正三顕彰会会長)

日本人の勤勉性、資本主義の精神の源流をつくったとして高く評価される江戸前期の禅僧・鈴木正三。正三の生まれ故郷・愛知県豊田市則定町にある鈴木正三顕彰会の小林誠会長に、その生涯や独自の仏教について紐解いていただいた。

鈴木正三
(すずき・しょうさん)
天正7(1579)年、徳川家康の家臣・鈴木重次の長子として三河国足助庄(愛知県)に生まれる。関ケ原の戦、大坂冬の陣、大坂夏の陣に出陣。その後、元和6(1620)年に江戸にて出家。三河に戻り千鳥山で修行、石ノ平に庵を構え、寛永9(1632)年に恩真寺をひらく。同14(1637)年天草・島原の乱に弟・重成が出陣し、天草の初代代官に任じられると、正三も天草へ渡り、人々の物心両面の復興に尽力する。明暦元(1655)年、江戸にて77歳で遷化。著作に「七部の書」とされる『盲安杖』『万民徳用』『麓草分』『因果物語』『二人比丘尼』『念仏草紙』『破吉利支丹』、言行録に『驢鞍橋』がある。

日々の仕事を天職として倦まず弛まず勤めていく「世法即仏法」の教え、プロとして捨て身の精進に打ち込む「仁王禅」の精神には、唯一不二である〝己〟を自らの手に取り戻し、人生、仕事、社会をよりよいものに変えていく力に溢れています
小林 誠
鈴木正三顕彰会会長
日々の仕事に心を込めて精いっぱい打ち込んでいくことが、そのまま仏道修行であり、人間として完成していくことになる――。
「世法即仏法」を説き、日本の倫理観、労働観に大きな影響を与えた江戸初期の禅僧・鈴木正三。著名な評論家の山本七平氏も、「日本近代化に最も大きな影響を与えた思想家であり、その点では、日本の近代化による世界への影響を通じて、世界に最も大きな影響を与えた日本人の一人ということができる」と正三を評しています。
しかし、いまでこそ名僧、独創的な思想家として世に知られるようになった鈴木正三ですが、ほんの50年ほど前までは、正三の郷里である愛知県豊田市則定町(旧足助町)の人々にさえ、ほとんど忘れられた存在だったのです。
それが一変したのは昭和49年10月のこと。作家の水上勉氏が「正三の取材をさせてほしい」と、当時の足助町役場を突然訪ねて来られたのです。
水上氏の来訪を契機に足助町は大騒ぎとなり、翌11月、地元の郷土史家や新聞関係者、著述家の神谷満雄氏らが知的なバックボーンとなって、「鈴木正三顕彰会」が立ち上がりました。
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▼忘れられた名僧
▼仏道への目覚め
▼「ふと剃りたり」
▼日々の仕事=仏道である
▼「正三は死ぬと也」
プロフィール
小林 誠
こばやし・まこと――昭和30年愛知県生まれ。元県立高校教諭。平成22年退職して、米づくり野菜づくりを専らとする。令和4年より鈴木正三顕彰会会長。
編集後記
日々の仕事に打ち込んでいくことがそのまま仏道修行であると説いた江戸初期の禅僧・鈴木正三。その故郷で立ち上がった鈴木正三顕彰会会長の小林誠さんが語る正三の生涯と教えは、進むべき道を見失いつつある現代日本に確たる生き方・働き方の背骨を取り戻す要諦に満ちています。

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