徳川260年 松平家の教えに学ぶ日本の心 松平洋史子(大日本茶道協会会長)

徳川御三家の一つである水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔として生まれ、先人たちが受け継いできた日本の心、文化伝統の素晴らしさを人々に伝え続けている松平洋史子さん。この変化の激しい時代において、いかに日本人らしく、美しく優しく逞しく生き抜いていけばよいのか、その生き方のヒントを、松平家の教えを紐解きながら教えていただいた。

姿勢を正せば見た目も美しくなり、張りのある美しい声も自然に出るようになるもの。背を丸めていては見えるものも見えなくなり、目の前の幸運も逃げてしまいます。

よき人生の第一歩は姿勢を正すことから始まるのです

松平洋史子
大日本茶道協会会長

いまの日本には、「自分はこう生きるのだ」「日本人ならかくあるべきだ」という人生を支える核となるもの、品格や覚悟を備えた人がだんだん少なくなっているように思えてなりません。また、先人が大切にしてきた日本の心、基本的な礼儀作法、起居動作なども時代と共に失われ、私たちが幸福に生きるための健全な人間関係・秩序が保たれなくなっているのではないかと危機感を抱いています。

水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔として生まれ育った私は、日本人としての品格と礼儀作法や覚悟と誇り、それらすべてを物心つく頃から家庭教育の中で自然に教えられてきました。

松平家では、伝統的に「つ」がつく年齢(九つ)までは、子供の教育・躾は家庭の中で責任を持って行うものだとされています。

例えば、小学生の頃にこんなことがありました。毎年、暮れの12月28日になると、女中さんが段ボール箱に私の持ち物をすべて集めて、新たな年に向けて必要なもの、必要のないものを取捨選択させるのです。その際に、私は国語の教科書を不要なものとして出してしまいました。

1月からも学校で授業が続くのですが、私だけ国語の教科書はありません。担任の先生にどうしたのか聞かれても、私は「忘れました」の一点張り。自分の判断で捨ててしまった手前、松平家の教育においては子供であっても、「間違えて捨てました。新しい教科書をください」とはどうしても言い出せなかったのです。

さらに驚いたのは両親の対応でした。数日後、担任の先生が事情を聴きに来たのですが、母は「うちの子が自分で不要な本として捨てました。申し訳ありませんが、そのまま勉強させてください」と答えたのです。

結局、見かねた先生から新しい教科書が支給されたのですが、学校がどうであれ、他の子がどうであれ、我が子は我が子、我が家には我が家の教育があるという信念を崩さない母の姿に、かつての武士の覚悟を教えられる思いでした。

プロフィール

松平洋史子

まつだいら・よしこ――京都府生まれ。水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔。幼少期より厳しい教育・躾を受けて育つ。国立音楽大学教育学部在学中に結婚。大日本茶道協会会長、広山流華道教授、茶懐石・宋紘流師範等を務める。祖母・松平俊子がまとめた松平家に代々伝わる生き方教本『松平法式』を受け継ぎ講演会を行う。また、場所を選ばずお点前ができる茶箱「I for You・宙」を考案し、茶道に流れる日本の心を国内外に伝える活動にも力を尽くしている。著書に『松平家 心の作法』『松平家のおかたづけ』(共に講談社)『一流の男になる松平家の教え』(日本文芸社)などがある。


編集後記

水戸徳川家の流れを汲む讃岐国高松藩松平家の末裔として生まれた松平洋史子さんに、祖母・俊子氏より教わってきた日本人として強く逞しく生きる先人の知恵を披瀝していただきました。読めば自ずと背筋が伸び、日本人の誇りが湧き上がってくる珠玉のエピソードが満載です。

2024年2月1日 発行/ 3 月号

特集 丹田常充実

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