【国難の時代のリーダーシップ】 いま、濱口梧陵に学ぶべきもの 濱口和久(拓殖大学防災教育研究センター長)

時は幕末。紀伊半島を襲った巨大地震と津波から村を救い、藩や国のため多分野で獅子奮迅の働きを見せた実業家がいた。ヤマサ醤油七代目・濱口梧陵である。防災や国防に精通し、梧陵の顕彰にも尽力する濱口和久氏に、和やかな元日に突如、能登地方を襲った震災の教訓を交え、この国難の時代を生きる道標を示していただく。

「自他の区別を克服して天下万民の困苦を救済せん」

濱口梧陵
(はまぐち・ごりょう)

文政3(1820)年紀伊国広村に生まれる。天保2年12歳で本家の養子となり、千葉銚子にて家業(ヤマサ醤油)の奉公に入る。嘉永4年広村に崇義団を結成、翌年稽古場を開設。安政元年に起きた安政南海地震の津波に「稲むらの火」を掲げ村民を救済、堤防の造築に着手。以降も社業の傍ら故郷の振興に努め、明治4年駅逓頭、和歌山県大参事。退任後の明治18(1885)年視察旅行中の米ニューヨークにて66歳で客死。

想定外が起きることを想定し、被害を最小限に留めること、人材の備蓄は十分にできる

濱口和久
拓殖大学防災教育研究センター長/同大学院地方政治行政研究科特任教授

新年早々、日本は〝想定外〟の困難に見舞われている。

とりわけ元日夕刻に発生し、最大震度7を観測した能登半島地震は石川県を中心に大きな爪痕を残した。一部地域には5・1メートルもの津波が押し寄せた。家屋の焼失・倒壊、道路の寸断、土砂災害といった被害も相次いだ。

未だに停電や断水が解消されず厳しい避難生活を続けている人も多い。犠牲となった方々に心よりお悔やみを申し上げると共に、避難を余儀なくされている皆様に一日も早く平穏が訪れることを祈らずにいられない。

不幸中の幸いは、津波による犠牲者の数が東日本大震災より抑えられたことだ。あの時、押し寄せた津波の恐ろしさを多くの人が目に焼きつけたことが、図らずも教訓となって働いたのだろう。

一方で、課題は山積している。第一に、被災者が集う避難所が相変わらず劣悪な環境であること。1995年の阪神・淡路大震災の時から問題とされてきたが、トイレや食事、ベッドの用意は報道を見る限り充分とは言えず、プライバシーの確保にも難がある。

 ・・・中略・・・

これまで大災害が起こる度、その時だけ「教訓」という言葉が叫ばれてきたのが日本である。本号のテーマを借りれば、これを契機に「丹田常充実(たんでんじょうじゅうじつ)」の気概に目覚め、危機に備えなければならない。

プロフィール

濱口和久

はまぐち・かずひさ――昭和43年熊本県生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒(37期)。防衛庁陸上自衛隊、首相秘書、栃木市首席政策監(防災・危機管理担当兼務)などを経て、現職。令和5年4月より「稲むらの火の館」客員研究員第一号に就任。著書に『リスク大国 日本』(グッドブックス)『日本版 民間防衛』(江崎道朗氏らとの共著/青林堂)など多数。


編集後記

実業家でありながら、大地震の危機に立ち上がり、故郷の強靭化に腐心した濱口梧陵。本稿の取材の数日後に能登半島地震が発生したため、急遽、濱口和久さんから今回の震災の教訓と今後への提言も新たに頂戴しました。自助と共助の心を以もって、この国難に処していかねばなりません。

2024年2月1日 発行/ 3 月号

特集 丹田常充実

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