3 月号ピックアップ記事 /対談
人生、仕事の根本は「氣」にあり 廣岡達朗(野球評論家) 藤平信一(心身統一合氣道会会長)
ヤクルトスワローズと西武ライオンズを日本一に導いた名監督として知られ、今年92歳を迎える現在も野球評論家として活動を続ける廣岡達朗氏。氏の活躍の原点は、若い頃より稽古に励んだ心身統一合氣道で「氣」の働きを習得したことにあるという。心身統一合氣道の道統を継ぎ、実践を通して「氣」の働きを伝え続ける藤平信一氏と共に、人が心魂を鍛える上で何が大切なのかを語り合っていただいた。
人を育て強いチームをつくるには、嫌われることを覚悟でそれまでの常識を覆すことも必要なんです。
何よりも大事なのは、こちらが本気であることです。
僕は選手とひとたび縁ができたら、全力でその子を育てると誓います。本気でやり抜いて駄目だったら、その時は自分に引導を渡す覚悟でやってきました
廣岡達朗
野球評論家
〈廣岡〉
藤平先生、ようこそ。どうぞお上がりください。私も2月9日で92歳になるものですから、こうして椅子に座った状態で失礼いたします。
〈藤平〉
とんでもありません。いつも廣岡さんのパワーには圧倒されてばかりで、ご自宅にお伺いできることをとても楽しみにしていました。卒寿を超えられたいまも、体調を崩された奥様のために毎日食事の準備や洗濯をなさっていると伺い、ただただ敬服しています。
〈廣岡〉
いや、これも楽しくやりゃいいんですよ。人間は考え方一つ。だから「大変だな、面倒だな」なんて一つも思わない。心を積極的に使っている時はあまり疲れることがありません。
年を取ると身体は下から順番に衰えてくるんです。これは厳しい自然の摂理で致し方ないことだけど、痛いと感じるのは生きている証拠と思えば何ということはない。一方で勉強を続けていると頭はだんだんと冴えてくる。僕は学んだことを後輩たちに伝えるのが使命と思っていますから、頭は絶対に衰えないと信じているんです。
〈藤平〉
私はかねて廣岡さんを人育ての名人と思って大変尊敬しているのですが、親身になって後輩たちを育てようという信念は、少しも変わっておられませんね。
どのような時も「臍下の一点」という中心があると、まるで波立ったタライの水が少しずつ静まるように、心は次第に安定してくるんです。そのことを私は何度も経験してきました。
人生においてはそういう土台を持って、肚をつくることがとても大切です
藤平信一
心身統一合氣道会会長
〈藤平〉
そういえば、先日もテレビの釣り番組に工藤公康さん(福岡ソフトバンクホークス元監督)が出られているのをチェックして「釣った魚の絞め方がいま一つ。あれではおいしくないから勉強したらよい。人生、何事も勉強」と話されていました(笑)。自分が育成してきた人たちに、いまでもこれほど関心を持っているのかと感じ入りました。
〈廣岡〉
いまの野球界は評論家ばかりで、監督をやり抜いた者はなかなかいません。その点、工藤は大変珍しい存在だと思う。
僕が西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)監督時代、入団3年目の工藤をアメリカ・カリフォルニア州のマイナーリーグに野球留学させたことがあるんです。彼はその頃、まだまだ「坊や」という感じで成績も全く振るわなかった。
このままだと駄目になると思ったものだから武者修業に行かせてハングリー精神を身につけさせることにしました。
日本と違って向こうは実績が出なければすぐにクビでしょ。工藤はメジャーリーグを目指す選手たちと共にアパートで貧しい共同生活をしながら一所懸命に努力し、帰国後は西武の主力投手になりましたよ。手が掛かったけれども、立派に成長してくれた。
〈藤平〉
工藤さんは、その時の厳しい海外での経験が、その後の長い現役生活の礎になったとおっしゃっていますね。
〈廣岡〉
僕はできないことをやるのが努力だと思っています。……(続きは本誌をご覧ください)
プロフィール
廣岡達朗
ひろおか・たつろう――昭和7年広島県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。29年に巨人入団、1年目から正遊撃手を務め新人王、ベストナインに輝く。引退後は評論家活動を経て広島とヤクルトでコーチを務め、監督としてはヤクルトと西武で日本シリーズ優勝、セ・パ両リーグでの日本一に導く。著書に『広岡イズム 〝名将〟の考え方、育て方、生き方に学ぶ』(ワニブックスPLUS新書)『動じない。』(王貞治氏、藤平信一氏との共著/幻冬舎)などがある。
藤平信一
とうへい・しんいち――昭和48年東京都生まれ。東京工業大学生命理工学部卒業。父・藤平光一より心身統一合氣道を継承し、世界24か国、約3万人の門下生に心身統一合氣道を指導、普及に務めている。米国大リーグのロサンゼルス・ドジャースの若手有望選手・コーチを指導する他、経営者、アスリートなどを対象とした講習、講演会、企業研修なども行う。慶應義塾大学非常勤講師。著書に『心と身体のパフォーマンスを最大化する「氣」の力』『「氣」の道場』『広岡達朗 人生の答え』(いずれもワニブックス)『一流の人が学ぶ氣の力』(講談社)『心と体が自在に使える「気の呼吸」』(サンマーク出版)など多数。
編集後記
ヤクルトスワローズと西武ライオンズを日本一に導いた名監督・廣岡達朗さんは92歳になる現在も野球評論家として活躍中です。廣岡さんといえば「管理野球」という代名詞がつくほどですが、取材を通して見えてきたのは、高いプロ意識と曲がったことが嫌いな実直なお人柄。心身統一合氣道会会長の藤平信一さんと共に、人間の活力の源泉である「氣」の働きについて語り合っていただきました。
特集
ピックアップ記事
-
対談
ソーシャルビジネスで世界を変える——業界を牽引するリーダーに学ぶ将の器、志の磨き方
更家悠介(サラヤ社長)
出雲 充(ユーグレナ社長)
-
対談
勝利を掴む指導者の条件
眞鍋政義(バレーボール女子日本代表チーム監督)
増地克之(柔道全日本女子監督)
-
エッセイ
【国難の時代のリーダーシップ】 いま、濱口梧陵に学ぶべきもの
濱口和久(拓殖大学防災教育研究センター長)
-
エッセイ
徳川260年 松平家の教えに学ぶ日本の心
松平洋史子(大日本茶道協会会長)
-
インタビュー
夢を持て 夢は叶う
林 博己 (エース会長)
-
インタビュー
人々の心に笑顔と希望の灯火を届けたい
梅津絵里(車椅子インフルエンサー)
-
インタビュー
「なにくそ、負けてたまるか」その精神が僕の魂に火をつけた
豊島雅信(スタミナ苑)
-
エッセイ
森信三先生の教えを貫いて
福永道子(実践人の家元副理事長)
-
対談
人生、仕事の根本は「氣」にあり
廣岡達朗(野球評論家)
藤平信一(心身統一合氣道会会長)
好評連載
バックナンバーについて
バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます
過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。
定期購読のお申込み
『致知』は書店ではお求めになれません。
電話でのお申込み
03-3796-2111 (代表)
受付時間 : 9:00~17:30(平日)
お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード