3 月号ピックアップ記事 /エッセイ
森信三先生の教えを貫いて 福永道子(実践人の家元副理事長)
立腰教育や躾の三原則など、人育ての神髄ともいうべき実践的な訓言によって、没後30年以上が経ったいまも多くの人を導き続けている教育者・森信三師。若き日にその謦咳に接し、半世紀にわたり教えを実践してきた福永道子氏が語る恩師との思い出や、学びに耳を傾けた。
〈写真=福永道子氏提供〉
私が実感する森先生のすごさは、真理を突いた短い言葉にあります。
例えば、先生の代名詞とも言える「人生二度なし」。死んだら二度と生まれてこられないこと、真剣に生きなければやり直しが利かないことは、誰もが何となく理解したつもりになっていることでしょう。
先生はそれを、「人生二度なし」という短い言葉でズバリと言い切られているため、聞く人の心に強烈に突き刺さり、内省を促すのです
福永道子
実践人の家元副理事長
「いまは、那智の滝の崖っぷちに立って、滝壺を眺めているような心境です」
昭和54年、長年にわたりご指導を賜ってきた森信三先生が最後のご講演に臨まれた際、お心の内をそう吐露なさいました。さらにご自身の人生を振り返り、
「他人様にお世話になるばかりで、何一つ恩返しができない一生でした」
と述懐されるのを伺い、私は溢れる涙を止めることができませんでした。
「先生、どうかそんなことを仰らないでください。私たちはこれまで、先生にどれほど多くのことを教えていただき、生きる力を与えていただいたか計り知れません」。私は心の中でそう叫んでいました。
森先生との出逢いは昭和46年。玉川大学の通信教育部で小学校教師を目指して勉強していた際、お世話になった岸野靖晴先生が、生涯を通じてご指導を仰ぐようにとご縁を結んでくださったのです。森先生76歳、私が26歳の時でした。
プロフィール
福永道子
ふくなが・みちこ――昭和19年岡山県生まれ。玉川大学通信教育部にて教員資格取得。大阪の豊中市立小学校に勤務後、58年あゆみ保育園を開設。森信三師の教育哲学に基づき30年にわたり同園の運営を続けた。
編集後記
森信三先生の薫陶を受け、その教えを教育現場で取り入れてきた実践人の家元副理事長の福永道子さん。小学校教師を退いた後、森先生の教えを幼児教育の場で実践すべく自費を投じて保育園を設立された福永さんの生き方から、師を慕う一途な思いが伝わってきます。
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