5 月号ピックアップ記事 /対談
世界の平和に人生を捧げて 千 玄室(茶道裏千家前家元) 西園寺昌美(五井平和財団会長)
4月で満100歳になられる茶道裏千家前家元の千玄室氏と、五井平和財団会長として世界各国で講演活動を続ける西園寺昌美氏。両氏には歩んだ道こそ違え、大きな共通点がある。世界の平和を願い、その志のために人生を捧げてきたことである。戦争や闘病という死線を越えた体験を通して平和に目覚めたお二人の歩みは、文字通り不惜身命、但惜身命そのものといってよい。それぞれの歩みを振り返りながら、いまだ紛争が絶えない現代、私たち一人ひとりは平和のために何ができるのかを語り合っていただいた。
「不惜身命とは何かに命を捧げることや。しかしな、但惜身命という言葉もある。
命は捧げる時は捧げなきゃいかんが、半面、命はどこまでも大切にすべきものや。
それも単に大事にするのでなくなく、他人様のためになるように使うものや」
後藤瑞巌老師のこのひと言で、まさに目から憑き物が落ちた感覚になったのを覚えております
千 玄室
茶道裏千家前家元
〈千〉
西園寺さん、しばらくです。
〈西園寺〉
本当にご無沙汰しております。玄室様もお変わりございませんか。ハワイからお帰りになられたばかりと伺いましたが、きょうはお疲れのところお時間を調整していただき、心より御礼申し上げます。
〈千〉
ハワイ大学で4回講義してまいりました。1時間ずっと立ったままで。
〈西園寺〉
まあ、100歳になられる玄室様がいまもそれだけ力強く活動されていることに、言葉にならないほどの感動を覚えます。立ち居振る舞いも少しも変わらず実にお美しくていらっしゃる。奇跡の方だと心からそう思います。
〈千〉
お茶のおかげですよ。母親の胎内にいる時からお茶を飲んで生まれてきましたからね。私の体はお茶でできていて、緑の血が体中に流れているのです(笑)。
おかげさまで私はいたって元気なのですが、最近、私より年下のトヨタの章さん(元社長の豊田章一郎氏)が97歳で亡くなりました。長い間友達として親しくしておりましたので、本当に残念でなりません。
〈西園寺〉
同じ時代を共に歩まれた同志であられますから……。
受けて立とうとしないのは自分自身を信じていないからです。
学校の成績が悪いから駄目だとか、気が弱いから駄目だとか、お金がないから駄目だとか、自分自身で勝手にそう信じ込んでいる。
しかし、神の分霊である人間には誰しも無限なる愛や調和、可能性、エネルギーといったものが内在されているのです。これを私は「神聖」と呼んでおります
西園寺昌美
五井平和財団会長
〈千〉
考えてみたら西園寺さんとも長いお付き合いですね。
最初にお会いした時、あなたはまだ20歳そこそこでした。後に嫁がれて西園寺姓になられましたが、琉球国王の尚家のお生まれで、沖縄に大変縁の深いお方でいらっしゃいます。
尚家といいますと、1968年、沖縄に青年会議所が設立された時、地元の実業家の尚詮君にお会いし、親しくお付き合いさせていただくようになりました。
〈西園寺〉
尚詮は私の伯父でございまして。
〈千〉
それに西園寺さんの師で、養父でもいらっしゃる宗教哲学者・五井昌久先生ともいろいろなご縁がありました。私は直接先生にお会いする機会はございませんでしたが、五井先生の信奉者で五井平和財団の設立に尽力された瀬木庸介さんの奥様が、私の家内と子供時代からの親友でございましてね、そういうこともあって西園寺さんともたびたびお会いしてきました。
もともと西園寺家は、古くから京都の公家として、千家との繋がりがあり、そこにも何か不思議な因縁のようなものを感じているのです。
〈西園寺〉
玄室様には何回も沖縄にお出ましいただき、地元の首長など名士の方々とお会いくださいました。玄室様がいろいろな意味で沖縄の地を支えてくださっていることに改めてお礼を申し上げたいと思います。
プロフィール
千 玄室
せん・げんしつ――大正12年京都府生まれ。昭和21年同志社大学法学部卒業後、米・ハワイ大学で修学。39年千利休居士15代家元を継承。平成14年長男に家元を譲座し、千玄室大宗匠を名乗る。文学博士、哲学博士。主な役職に外務省参与、ユネスコ親善大使、日本・国連親善大使、公益財団法人日本国際連合協会会長。文化功労者顕彰・勲二等旭日重光章・文化勲章、レジオン・ドヌール勲章コマンドール(フランス)、大功労十字章(ドイツ)、独立勲章第一級(UAE)等を受章。京都市名誉市民。
西園寺昌美
さいおんじ・まさみ――昭和16年東京生まれ。「世界平和の祈り」を提唱した宗教哲学者・五井昌久氏に師事、その後五井氏の後継者として白光真宏会会長に就任。五井平和財団会長、MPPOEI代表。ブダペストクラブ名誉会員。聖シュリ・ニャーネシュワラー世界平和賞(西園寺裕夫氏と共同受賞)、女性リーダーサミット・サークルアワード、バーバラ・フィールズ人道平和賞、ルクセンブルク平和賞、パキスタン大統領より「国際平和賞」、ユーロナレッジ・リーダーシップ平和賞を受賞。欧州の『OOOM』誌「世界で最も人々に影響を与えた100人」に数回選出。
編集後記
人類が希求し続ける平和。しかし、国や民族間の戦争や紛争が止む日は1日もありません。長年、平和の実現のために力を尽くしてこられた茶道裏千家前家元の千玄室さんと五井平和財団会長の西園寺昌美さんに、巻頭対談を飾っていただきました。満100歳を迎える千さんが語られた亡き戦友や日本への思い、闘病を通して人間誰もが持つ"神聖"に目覚められた西園寺さんの体験談が心に重く響きます。
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