5 月号ピックアップ記事 /対談
乗り越えられない試練はやってこない ~5年後生存率0%の命を生き抜いて~ 堀内志保(写真右) 堀内詩織(写真左)
5年後の生存率0%という悪性小児がんが堀内詩織さんを突如襲ったのは、2003年3歳の時だった。しかし、母・志保さんの懸命な介護、そして地元・高知のお祭りで「よさこい」を踊りたいという強い思いを胸に、詩織さんは辛い抗がん剤治療に耐え、様々な人生の苦難を乗り越え、現在に至っている。医学の常識を覆し、20歳を超えて生きる詩織さんの姿は、人間の生きる力と、意志の及ぼす力のいかに大きいかを語って余りある。その母子二人三脚の歩みこそは「不惜身命 但惜身命」と呼ぶにふさわしい。
これまで辛い体験ばかりでしたから、この子は絶対に幸せにならなくてはいけないんです。詩織の幸せな人生のために、これからも後悔しない毎日を歩んで行きたいと思います
堀内志保
〈本誌〉
志保さんに、小児がんを発症した詩織さん(当時10歳)との壮絶な闘病の日々を語っていただいた弊誌2010年12月号の記事には、全国からたくさんの感動の声が寄せられました。あれから早13年が経ちましたが、まず近況からお話しいただけますか。
〈志保〉
13年前に取材していただいてから、何年後だったでしょうか。心臓にも悪いところが見つかりまして……。娘が「よさこい」を踊るようになったきっかけは後にお話ししますけれども、地元・高知の交流事業で韓国へよさこいを踊りに行った際、突然倒れて心臓が止まってしまったんです。
5分ほど意識が戻らず、現地の病院に駆け込んだものの、明確な診断はなく、結局一泊して日本に戻りました。詩織は韓国に行く前から調子が悪くて、検査はしてはいたのですが、最終的に心臓に病気が見つかり、15歳の時にICD(植込み型除細動器)の手術を行うことになりました。
で、障害者手帳をもらって、いまも狭心症の薬を毎日飲んでいますし、2か月に1回は医科大に通い、ICDも何年かに一度は電池を入れ替える手術をしなければいけません。車の免許を取るにも医師の診断書が必要で、空港の探知機など強い電磁波を発する機器にも近寄れないんです。
ですから、小児がんは再発しなかったものの、新たに心臓の病気が出てきて、お医者さんとの縁は一生切れなくなってしまいました
目の前のこと、できることに一所懸命生き抜いて、諦めなければ道はひらける、乗り越えられない試練はないことを多くの人に伝えていきたいです
堀内詩織
〈本誌〉
前回の取材後も試練の日々が続いていたのですね。詩織さんは、ご自身の心臓の病気をどのように受け止められたのですか。
〈詩織〉
まず、小児がんの時の手術に加えて、体の傷がさらに増えるのが嫌でしたし、いままで以上に日常生活が制限されるのは本当に辛いことでした。正直、ICDを入れてまで、生きなあかんのかなって……。それでも手術を決心できたのは、まだ生きてよさこいを踊りたいという気持ち、母の支えがあったからだと思います。
〈志保〉
心臓の手術は親として本当に悩みました。詩織からも「機械になってまで生きるのは嫌や!」「お母さんに私の気持ちは分からん!」って言われました。
〈詩織〉
反抗期ではないですけれども、この時が人生で一番母と言い合いをしました。そんなことを母に言ったのは初めてで、それほど心臓の手術は辛かったんです。
〈志保〉
けれども、私が「せっかく小児がんに負けずにここまで生きてきたのだから、生きる術があるならば、手術をするべきじゃない?」っていう話をしたら、詩織はいま時の子らしく、「手術しても携帯は使える?」って。それで主治医に確認し、心臓から離れた右手で使えば大丈夫だと分かると、手術を受け入れてくれました。
とにかく、3歳で小児がんを宣告され、「この子は5年生きられない」と言われてから、15歳まで12年生きてきた。もう明日は来るのか、明後日はどうなっているのか分からない、そんな状況で突っ走ってきましたから、親としてここで諦めるわけにはいかん、その思いが一番強くありました。
プロフィール
堀内志保
ほりうち・しほ――高知県生まれ。平成12年、詩織さんを出産。3年後に詩織さんに悪性の小児がん「腎悪性横紋筋肉腫様腫瘍」が見つかり、5年後の生存率はゼロ%と宣告される。以後、15歳で新たに見つかった心臓疾患を含め、詩織さんの闘病を支え続ける。
堀内詩織
ほりうち・しおり――平成12年高知県生まれ。15年に悪性の小児がん「腎悪性横紋筋肉腫様腫瘍」を発病。5年後の生存率はゼロ%と宣告されるも、母の介護、様々な人の支え、「よさこい」を踊りたいという強い思いを生きる力に医学の常識を覆す。その姿は22年に公開された映画『君が踊る、夏』(東映)のモチーフともなった。
編集後記
僅か3歳の時に「5年後生存率0%」といわれる小児がんに侵された堀内詩織さん。その壮絶な闘病生活を母・志保さんに語っていただいたのは、弊誌2010年12月号です。あれから13年─詩織さんは新たに心臓の病を抱えながらも、無事に成人を迎えました。親子の愛と絆、意志の力がもたらした奇跡の実話に涙を禁じ得ません。
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