8 月号ピックアップ記事 /対談
愛の力が人生の試練を乗り越えさせてくれた 山崎理恵(みらい予想図理事長) 岩朝しのぶ(日本こども支援協会代表理事)

支援が必要な子どもたちの幸せのために、日々全力で走り続けている女性がいる。お一人は、高知市で自ら重複障碍児を育てながらNPO法人「みらい予想図」を設立、同じ環境にある家族に手を差し伸べる山崎理恵さん。もうお一人は増え続ける児童虐待や育児放棄を何とかしたいという一念から認定NPO法人「日本こども支援協会」を立ち上げ、里親制度の啓発活動を続ける岩朝しのぶさんである。これまで多くの逆境を乗り越えながら前進を続けてきたお二人の歩みからは、真実の愛の力が、立ちはだかる人生の壁を乗り越えさせることを教えられる。

絶望の中でもふと笑顔の自分がいることに気づきました。その時、思ったんですね。笑顔と感謝で乗り越えていこうと。
もちろん、現状は何一つ変わらないし、どん底なんだけれども、笑顔と感謝だけあったら乗り越えていけると思ったし、本当に乗り越えていけたんですよ
山崎理恵
みらい予想図理事長
〈山﨑〉
初めまして。岩朝さんとお話しできるのを楽しみに高知から大阪にまいりました。大きな病気を乗り越えて、いまは家庭環境に恵まれない子どもたちのための里親制度の普及や虐待の防止に日々奔走されている。本当にすごいと。きょうはお会いできて光栄です。
〈岩朝〉
私も山﨑さんの人生を知ってとても感動しました。重度の障碍児として生まれた音十愛ちゃんを愛情深く育ててこられたお姿に、子どもの頃、長い長い入院生活を送っていた私を支えてくれた母の姿が重なったんです。
サイトで拝見したところ、山﨑さんが理事長を務められる「みらい予想図」という重症児のためのNPO法人は今年で8年目を迎えられるようですね。
〈山﨑〉
はい。「どんなに重い障碍があっても、皆に役割がある」という信念から、2017年「みらい予想図」を設立し、重症児のデイサービス事業をスタートさせました。この4月には3つ目となる事業所を開設したばかりなんです。
100件くらい当たってやっと見つかった3階建ての物件をリフォームしましてね。1階は重症児のデイサービスをそのままスライドさせ、2階部分では念願だった18歳以上を対象としたデイサービスを始めました。3階部分にはヘルパーステーションを設けて、医療的ケアが必要な人のためにホームヘルパーを派遣できるようにしたんです。
法人全体で看護師さん、ヘルパーさん、保育士さん、介護士さんなど40名弱の方が働いてくださっています。
8年前に法人を立ち上げた時は、何も分からない主婦が無謀なことをやっている、と散々反対されました。そんな私がここまでやり続けてこられたのが、自分でも不思議なくらいです。

小児病棟で亡くなる子は、短くともものすごい愛に満ちた人生を終えていったと思うんです。だけど、虐待で亡くなっていく子は愛される喜びも知らずに短い人生を終えていくわけです。
虐待は運命なんかじゃない。人生を懸けて、そういう子をせめて一人でも救えたらいいと思うようになったんです
岩朝しのぶ
日本こども支援協会代表理事
〈岩朝〉
私も2010年に任意団体として日本こども支援協会を立ち上げましたけど(2015年に法人化)、設立の時よりも物事が深く、広く見えるようになったと感じているんです。経験を積むほど「次の一手は何だろう」と広い視点で捉えられるようになったのかなと。山﨑さんもそうではありませんか。
〈山﨑〉
本当にその通りです。とりわけ利用者さんからの学びが大きくて、やはり何事も謙虚に学ばせていただくという姿勢がないと私たちの成長はないということを最近すごく感じますね。
〈岩朝〉
看護を受ける側からすると、病院にいて医療者の都合で時間が流れていくというのはニーズじゃないんですよ。私もつい最近入院して手術をしたばかりなんですけど、確かに医療が進歩しているのはよく分かる。
だけど、業務は滞りなく流れるのに人間的な関わりが希薄になってきた、大切なものが削がれてきたという気がしてなりませんでした。
〈山﨑〉
確かに新型コロナウイルスのパンデミック以降、それが一層顕著になりましたね。
〈岩朝〉
少しそのこととも関連するのですが、いま特に思うのは資本主義経済の大きな流れの中で社会全体が動いているのに、福祉の分野は全く別の流れで動いているということです。
私たちの協会では個人、法人様からいただく寄付をもとに虐待防止や里親制度の普及、里親への支援事業などを続けていますけど、これらの問題は福祉という分野だけで到底解決できるものではないんですね。
いま年間の虐待通告件数は全国で20万件を超えていて、……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
▼子どもたちの幸せを願って
▼「お母さん、この子には目がありません」
▼小児病棟で知った人間の生と死
▼ハンバーグを知らなかった5歳の女の子
▼笑顔と感謝だけあったら乗り越えていける
▼どん底からの逆転人生
▼愛着形成は家庭でしか育まれない
▼真実の愛が子どもたちを変える
▼重い障碍の子にも必ず役割がある
プロフィール
山崎理恵
やまさき・りえ――昭和42年香川県生まれ。高知市内の病院で看護師、ケアマネジャーとして勤務した後、平成17年重度の重複障碍児である音十愛さんを出産。29年特定非営利活動法人みらい予想図を設立し、理事長に就任。
岩朝しのぶ
いわさ・しのぶ――昭和48年宮城県生まれ。企業経営を経て、平成22年特定非営利活動法人日本こども支援協会設立。自身も里親として女児を養育する傍ら、児童養育施設や里親の支援を通じて、社会養護の現状や里親制度の啓発に取り組む。
編集後記
重複障碍児を育てた経験を生かし、同じ境遇にある人たちのための施設運営を手掛ける「みらい予想図」理事長の山﨑理恵さん、自ら里親として女児を育てながら、児童虐待防止や里親制度の啓発に力を注ぐ「日本こども支援協会」代表理事の岩朝しのぶさん。お二人のお話を通して、子供たちの人生にとって家庭の温もりや親の愛がどれだけ大きく大切であるかを思わずにはおれません。

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