8 月号ピックアップ記事 /エッセイ
人生の真価は晩節に宿る——先達に学ぶ〝晩晴学〟 前坂俊之(静岡県立大学名誉教授)

古代中国では人生の季節を青春・朱夏・白秋・玄冬と呼んだ。超高齢社会を生きる日本人は、玄冬、晩節の歩み方が切実に問われていると言えよう。加齢と共に輝きを失う人、反対に輝きを増す人の違いは何か。30年余りをその研究に捧げてきた前坂俊之氏の目で、晩節を凛々しく生き抜いた長寿の達人を解剖していただく。

「人の生涯をして重からしむると軽からしむるとは、一に其の晩年にある。随分若いうちは、欠点の多かつた人でも、其の晩年が正しく美(うる)はしければ、其の人の価値は頗(すこぶ)る昂(たかま)つて見えるものである」
――渋沢栄一
前坂俊之
静岡県立大学名誉教授
気がつけば傘寿となり果てた私がライフワークとして続けているのが、日本の発展に尽くしたリーダーの研究、そして長寿者の研究です。
1993年、新聞社を50歳で辞め大学教授に転身して以来、その研究と講演活動の傍らブログを毎日執筆し、7,000本の記事を公開してきました。かくも早く第二の人生に進んだのには、理由があります。
一つは戦争の爪痕が生々しく残る岡山市で育ち、高校2年になった時、突然の心筋梗塞で父親を亡くしたこと。52歳でした。もう一つは大学卒業後、作家を志して新聞社に入るも、数年後にまさかの倒産を体験したことです。
親父より長く生きたい、一刻も早く自分で生きる力を身につけたい。その一心で記者時代に複数の本を出版し、それが学術的に認められて大学に移籍。前職で深刻な人口予測に触れていたため、どうしたら晩年を凛々しく生き、天寿を全うできるか、そのヒントを長寿の達人に求め始めたのです。
折しもこの7月に新一万円札の顔となる渋沢栄一翁が、晩年についてこう言い遺しています。
「人の生涯をして重からしむると軽からしむるとは、一に其の晩年にある。随分若いうちは、欠点の多かつた人でも、其の晩年が正しく美はしければ、其の人の価値は頗る昂つて見えるものである」
人生の軽重を決めるのは晩年、晩年が立派でありさえすればその人の価値は上がる。では晩節に輝ける人はどんな人か。私は「晩晴学(ばんせいがく)」と題して研究していますが、いまこそ真剣に考えるべきテーマではないでしょうか。
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昨今、活躍する高齢者の話題は枚挙にいとまがありません。本記事では日本史に燦然と輝く功績を遺した偉人たちが、いかなる晩年を過ごしたのか――その生き方の深奥にある精神に迫っていただいています。
~本記事の内容~
▼百年生きる日本人に必須の「晩晴学」
▼75歳から日本復興へ 〝電力の鬼〟松永安左エ門
▼86歳で復活した〝憲政の神様〟尾崎行雄
▼94歳まで東西の架け橋に 〝人類の教師〟鈴木大拙

松永安左エ門
明治8(1875)〜昭和46(1971)

尾崎行雄
安政5(1858)〜昭和29(1954)

鈴木大拙
明治3(1870)〜昭和41(1966)
文中の肖像はすべて国立国会図書館「近代日本人の肖像」より
プロフィール
前坂俊之
まえさか・としゆき――昭和18年岡山県生まれ。44年慶應義塾大学卒業後、毎日新聞社入社。情報調査部などを経て、平成5年静岡県立大学国際関係学部教授。ジャーナリズム論、国際コミュニケーション論等を専門とする傍ら、30年にわたり長寿者研究を重ねる。著書多数。近著に『人生、晩節に輝く』(日本経済新聞出版)がある。
編集後記
志半ばで夭折(ようせつ)した偉人は多いですが、前坂俊之さんのお話を伺うと、各界に色褪せない業績を遺した偉人には長寿者が意外なほど多いことにも気づかされます。「知行合一」そして「生死一如」を道標として、年を取るほど一日一日を真摯に生き、〝晩晴〟していく人生を送りたいものです。

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