4 月号ピックアップ記事 /エッセイ
【修己治人の人】古賀穀堂の生き方に学ぶ 伊香賀 隆(佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員)
人は何のために学ぶのか――。その問いを生涯考え続けた人物がいる。古賀穀堂、佐賀藩主・鍋島直正の側近として幕末の佐賀藩の近代化に大きく貢献した人物だ。穀堂はなぜ広い見識を持ち幾多の功績を残せたのか。穀堂の艱難辛苦の人生から見えてきた運命を切りひらく秘訣を、佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員の伊香賀 隆氏に紐解いていただいた。
「学なる者は、将に己を修め人を治めんとするなり。何ぞ身を終うるまで矻矻(こつこつ)として文字を攻(おさ)むるに暇あらんや」
(学問というものは自分を修め、人を治めるものである。どうして生涯、文字の世界に止まって、字句の解釈ばかりに時間を費やす暇があろうか)
古賀穀堂
(こが・こくどう)
安永6(1777)~天保7(1836)年。古賀精里の長男として佐賀城下に生まれる。江戸遊学の後に26歳で佐賀に帰国。藩校・弘道館教諭、同教授を務める。43歳で後の藩主・鍋島直正(貞丸)の御側頭に任ぜられる。晩年は藩政の大改革に取り組む。
「心魂を奮い立たせ、独り古人の書を読み、天下の士を友とし、道徳と文章によって宇宙に輝かせるのみである」
幼少期から「宇宙間第一の英雄」になるという壮大な志を抱き、明けても暮れてもその志を遂げたい。
この若年期の立志が生涯心の支えとなっていくのです
伊香賀 隆
佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員
古賀穀堂は父に倣って儒学者になり、佐賀藩主・鍋島直正の側近として教育や藩政改革の基盤を築き、佐賀藩の近代の礎をつくった人物です。
その生涯についてはよく分からないことが多くありましたが、かつて帝室博物館(現・東京国立博物館)総長だった森鷗外が「古賀穀堂遺稿」を92点も古書店で買い求め、丹念に読み込んでいたことが2012年になって分かりました。この発見により穀堂の全貌がより明らかになりつつあります。
大学院で儒学思想を学んだ私は穀堂の名前こそ知っていたものの、深く研究するに至ったのは佐賀大学教授の故・生馬寛信先生が2015年に出版された佐賀偉人伝シリーズ『古賀穀堂』の執筆をお手伝いしたことがきっかけでした。
その後、森鷗外が収蔵した「古賀穀堂遺稿」の解読にも従事し、それを読み込む過程で穀堂の功績の裏にあった若き日の立志、長年の苦悩などを知り、その生き方に深い感銘を受けるようになりました。
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▼学問は己を修め人を治めるもの
▼穀堂の原点は若き日の立志にあり
▼不遇の時代に運命をひらく鍵
▼いま古賀穀堂の生き方に学ぶもの
プロフィール
伊香賀 隆
いこうが・たかし――昭和47年佐賀県生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業。東洋大学大学院文学研究科中国哲学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。専門は朱子学・陽明学を中心とした中国宋明代の儒学思想、及び佐賀儒学。佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員。佐賀県立図書館郷土資料課非常勤職員。著書に『聶双江』(シリーズ陽明学、明徳出版社)、共著に『佐賀学Ⅲ』(海鳥社)『語り合う良知たち』(研文出版)など。
編集後記
古賀穀堂という儒学者をご存じでしょうか。江戸後期、佐賀藩主・鍋島直正を支え、怠惰に陥っていた藩の大改革を断行し、近代化の道をひらいた人物です。佐賀大学地域学歴史文化研究センター特命研究員・伊香賀隆さんのお話から自己修養に生きた穀堂の人生が浮き彫りになります。
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