先師先哲に学ぶ 大転換期の生き方 上甲 晃(志ネットワーク「青年塾」代表) 田口佳史(東洋思想研究家)

緊迫する国際情勢、混迷深まる国内事情。いまの日本を巡る状況は、内憂外患の四文字に凝縮されるといってよいだろう。松下政経塾と青年塾を通じ、日本の将来を担う青年の教育一筋に携わってきた上甲晃氏と、東洋思想の知見をもとに、国のあり方や人の生き方について提言を続ける田口佳史氏は、この現状をどう見ているのか。二人が指標としてきた先哲が示唆する時代を拓く条件とは――。

松下幸之助の志を実現することを通じて、日本が新しい時代を拓く力になる。これを私の最後の使命として取り組んでいく覚悟です

上甲 晃
志ネットワーク「青年塾」代表

〈田口〉 
上甲さんとは、杉並師範館で講師をお願いしたり、様々なご縁がありますから、随分長いおつき合いになりますね。

〈上甲〉 
もう約20年前になりますね。懐かしいなぁ(笑)。

〈田口〉 
参議院議員の山田宏さんが杉並区長時代に、「漢籍の勉強会を開いてほしい」というので、10年くらい講義を続ける中で、やっぱり学校教師がしっかりしなければまともな教育はできないという話になって立ち上げられたのが杉並師範館でした。一般社会人を対象に一期生約30名募集したところ、志に燃える215名もの方々から応募が殺到しました。

カリキュラムの中で中国古典の『大学』を必須にするなど、人間力を重視する教育に力を入れて、5年間で123名の教師を養成したことはとても大きかったと思います。いろんな方に教鞭を執っていただきましたが、特にお願いして講師を務めていただいたのが上甲さんでした。

ご縁の元を辿ると、私がかつて新自由クラブの選挙参謀をしていた時に、松下政経塾から候補者を立てようということになって、山田宏さんの擁立に関わりました。

〈上甲〉 
当時は、松下政経塾の草創期。世間からは「素人に政治家は無理」と言われ、塾生たちは「本当に政治家になれるのか」と不安に駆られていた時期でした。そのため、山田宏氏と松原仁氏の選挙には総力を挙げて取り組みました。

日本が東洋の時代をリードする国になるためには、東洋思想をもって国是とするような国にならなければならないと思います

田口佳史
東洋思想研究家

〈上甲〉
田口さんは、近代西洋思想の問題点は何だと思われますか。

〈田口〉 
最大の問題点は、自他分離だと思います。東洋思想というのはこれと真逆の自他非分離なんですよ。 『華厳経』も説くように、生きとし生けるものはすべて繋がっているという前提に立っている。近代西洋思想がもう少しそういう立場に立ってくれていたら、地球環境がここまで悪化することはなかったでしょう。

〈上甲〉 
先ほどご紹介した、松下幸之助の国家百年の計の話にも通じるんですが、いまの日本の問題は、こんな国を目指そうという理念がないことだと私は思います。国民が、そんな国になればいいよねと共感し、奮い立つような方向性を示せていない。

ですから、人手不足だと言えば安易に外国からどんどん人を入れようとする。その結果、将来社会がどうなるかという展望は全くない。

プロフィール

上甲 晃

じょうこう・あきら――昭和16年大阪市生まれ。40年京都大学教育学部卒業と同時に、松下電器産業(現・パナソニック)入社。56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年青年塾を創設。著書に『志のみ持参』『松下幸之助に学んだ人生で大事なこと』『人生の合い言葉』など。近著に『松下幸之助の教訓』(いずれも致知出版社)。

田口佳史

たぐち・よしふみ――昭和17年東京都生まれ。新進の記録映画監督としてバンコク市郊外で撮影中、水牛2頭に襲われ瀕死の重傷を負う。生死の狭間で『老子』と運命的に出合い、「天命」を確信し、東洋思想研究に転身。「東洋思想」を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践し、1万人超の企業経営者や政治家らを育て上げてきた。配信中の「ニュースレター」は英語・中国語に翻訳され、海外でも注目を集めている。主な著書に『「大学」に学ぶ人間学』『「書経」講義録』(いずれも致知出版社)他多数。


編集後記

「国家百年の計をつくらなければ行き詰まる」「この2、3年を逃すと取り返しがつかなくなる」。志ネットワーク「青年塾」代表の上甲晃さんと東洋思想研究家の田口佳史さんには、日本の現状への強い危機感と共に、この窮状を打開する道を先人の言葉に照らして語り合っていただきました。いまこそ私たち日本人に奮起が求められています。

2023年8月1日 発行/ 9 月号

特集 時代を拓く

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