9 月号ピックアップ記事 /インタビュー
科学技術立国 日本の前途を照らす 栗原権右衛門(日本電子会長)
祖業である電子顕微鏡で世界トップシェアを誇り、ノーベル賞の陰の立役者と称される理科学・分析機器メーカー日本電子。しかし営業畑生え抜きの栗原権右衛門氏が社長に就任した時、同社は未曽有の経営難に喘いでいた。歴史ある大企業がいかに変貌を遂げ、日本の科学を牽引しているのか――。栗原氏の経営改革の軌跡に迫った。
永続する企業を実現するために大切なのは、創業精神、DNAを守り抜くことじゃないでしょうか
栗原権右衛門
日本電子会長
◆ノーベル賞 陰の立役者
――取材に先立ち貴社(本社/東京都昭島市)の構内を拝見しましたが、江崎玲於奈博士などノーベル賞を受賞された一流の科学者による植樹があり、驚きました。
〈栗原〉
そちらに飾ってある「知足者富」(足るを知る者は富む)の色紙も、イベルメクチンの開発で2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生にいただいたものです。ありがたいことに、当社の主なお客様はそうしたノーベル賞受賞者、候補者を含むトップクラスの科学者なんですよ。
まず当社の歴史を簡単に説明しますと、当社は戦後間もない1949年、電子顕微鏡(それまでの光学顕微鏡の100~1,000倍、高精細の像を表示する)を開発する日本電子光学研究所として、元海軍将校の風戸健二により設立されました。
食べるのもやっとの時代になぜ顕微鏡だったかというと、海軍技術研究所のエンジニアも務めた風戸には、日本の敗戦は科学技術の弱さに一因があり、基礎科学の振興なくして日本復興はないとの思いがありました。
そして電子顕微鏡の研究者・黒岩大助の著書を読み、これが広まればいままで見えていなかった「極微の世界」が開かれ、良質な材料の開発や様々な学問研究に役立つばかりか、青少年たちに科学する心を持ってもらえるはずだと考えたんです。
――電子顕微鏡、科学技術の持つ可能性にいち早く気づかれた。
〈栗原〉
そんな「極微の文化の建設」を掲げた彼の許に、復興に燃える若い技術者10人が集結しました。旧飛行場の廃品鉄材からよい材料を探し、X線装置用電源を応用するなどありあわせの材料を最大限に利用し、ほとんど手づくりで電子顕微鏡第一号機「DA-1」を完成。これが注目される一方、国内は復興途上でしたから、早々に欧米で現地法人をつくって販売を始め、1956年にフランスの原子力研究所に納品することに成功します。
いま国内に工場が3つと支店が9つ、海外に24の法人があるのですが、これがメイドインジャパンのものづくりを貫く原点であり、最初から世界を相手に市場を開拓したこと(Born Global)が成長の基盤になってきたんです。
プロフィール
栗原権右衛門
くりはら・ごんえもん――昭和23年茨城県生まれ。46年明治大学商学部卒業後、日本電子入社。取締役メディカル営業本部長、常務取締役、専務取締役を経て平成19年副社長、20年社長。令和元年6月より会長兼最高経営責任者、4年6月より会長兼取締役会議長。
編集後記
戦後の焼け跡で創業され、70年の歴史を刻んできた日本電子。電子顕微鏡を主力とする同社では異例、営業畑出身のトップである栗原さんのお話は、技術の向上・深化に力点が置かれ、低収益に悩む日本メーカーの通弊を打破していく軌跡です。その背景に創業者・風戸健二氏への敬慕の念、氏が遺した祖業のDNAを守り抜くという気概を節々に感じる取材でした。
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