五十年先の日本に未来はあるか 數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問) 月尾嘉男(東京大学名誉教授)

現在、日本は大きな危機に直面している。三十余年前、世界の株式時価総額のトップ5はすべて日本企業が占めていたが、いまやトップ50にすら1社も入っていない。
高齢化率は世界2位、合計特殊出生率は世界186位、競争力は世界35位、留学生数は世界38位……。既に世界の三流国へと凋落してしまったと、數土文夫氏と月尾嘉男氏は警鐘を鳴らす。
問題の原因は何か。いかにして打開するか。大所高所から論じ合う日本の未来――。

いま日本は瀬戸際に立っていると思っています。ジャパン・アズ・ナンバーワンから30年で世界の三流国になってしまった。

これから日本が復活するために大事なのは、独立自尊の気概、名誉心、廉恥心、仁徳です

數土文夫
JFEホールディングス名誉顧問

〈數土〉 
僕はね、月尾さんと面識を得たいなと、ずっと長い間思っていたんですよ。

〈月尾〉 
光栄です。私も『致知』の「巻頭の言葉」を読ませていただいて、数字に基づく考察もさることながら、古典の造詣が大変深く、とても同じ工学部卒業とは思えないと感心していました(笑)。

〈數土〉 
いえいえ。今回、編集部に頼んで、月尾さんのご著書『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社刊)を送ってもらったんですけど、読んでびっくりしました。僕が最近、外で喋っていることとほとんど同じことが書かれてある(笑)。

僕がNHKの経営委員長や東京電力の会長を務めていた時、経理部長だとか財務部長だとか企画部長が事あるごとに説明に来るんですが、最初の頃は10分間話をして1回も数字が出てこない。

だから、いまの日本は数字を大事にしなくなってしまった。これが一番の弱みじゃないかと思います。

〈月尾〉 
この本を上梓したのは2015年ですから、日本を取り巻く様々なデータは、いまはもっと下がって悪化しています。

やはり日本が世界に誇るものは数千年間にわたって育んできた類い稀な文化です。

日本には文化的な宝がたくさんあるけれども、その価値を日本人自身が意識していない

月尾嘉男
東京大学名誉教授

〈數土〉 
いま日本が直面している問題の一つは、超高齢社会と少子化社会、これが重なって進んでしまっている。若い人の負担が過重になり、老人には不安を持たせるような時代になっています。

〈月尾〉 
世界の高齢化率を見ると、1位はモナコで2位が日本です。ただ、モナコは金持ちの年寄りが集まっている特殊な国です。だから、普通の国の中では日本が世界一の高齢国ということになります。

それから少子化については、日本の合計特殊出生率は世界で186位というとんでもなく低い状態です。

〈數土〉 
それらが何を意味しているかと言うと、あらゆる分野で日本人の生産性が落ちてしまっている。特に日本人は国も企業も金融資産の生産性に着目することを忘れてしまって、お金に関する話をするのは道徳的にいかがなものかと。

そういう古い考えを持っているものですから、なかなか経済的に豊かになっていかない。日本の大企業の経営者で財産を持っている人は外国に比べても少ないですよ。この30年間で日本の企業は相対的に規模が小さくなってしまいましたね。

〈月尾〉 
おっしゃる通り、1989年が日本経済の頂点でした。世界の株式時価総額のランキングを見ますと……

プロフィール

數土文夫

すど・ふみお――昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。経済同友会副代表幹事、日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長を歴任し、令和元年より現職。

月尾嘉男

つきお・よしお――昭和17年愛知県生まれ。40年東京大学工学部卒業。46年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。53年工学博士(東京大学)。都市システム研究所所長、名古屋大学教授、東京大学教授などを経て平成15年東京大学名誉教授。その間、総務省総務審議官を務める。著書に『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)など。


編集後記

巻頭対談はJFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さんと東京大学名誉教授の月尾嘉男さん。該博な知見とデータを基に日本の現状を分析し、歴史や古典に鑑みて今後の日本の進むべき道を示していただきました。危機感を抱きながらも、長所に目を向け、決して悲観せず明るい志を胸に前進していくことが大切だと教えられます。

2023年8月1日 発行/ 9 月号

特集 時代を拓く

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