8 月号ピックアップ記事 /対談
松尾芭蕉の歩いた道 境野勝悟(東洋思想家) 安田登(下掛宝生流ワキ方能楽師)
俳聖・松尾芭蕉。若き日、武士として生きることを諦めて俳諧を生業とすることを決め、その後、命懸けの漂泊の旅を通して俳諧を道として突き詰めていった芭蕉の歩みは、毎日が覚悟の連続だったといってよい。長年、禅の立場から芭蕉を探究、今年(2022)卒寿を迎えた境野勝悟氏と、能楽という視点で芭蕉の本質を追究してきた安田登氏に、芭蕉の生き方や、その求めた世界について縦横に語り合っていただいた。
人にとって、疎ましく、好ましくないものの中に、素晴らしさがある。芭蕉はこの考え方を自分の俳諧に生かそうと考えるんです
境野勝悟
東洋思想家
禅に「一無位(いちむい)の真人(しんにん)」という言葉があります。ひと言で言えば、よい悪い、是非、得失、そういうものを超越した人。しかも自由自在に自分を生き、人にも生きる喜びを与える人のことを、そのような言葉で呼んでいます。私は芭蕉が俳聖と言われる理由もそこにあると思うんです。
『おくのほそ道』は能を知っている前提で書かれてあるんです。能を知っていると読み方がより広く深くなるのです
安田登
下掛宝生流ワキ方能楽師
芭蕉は主君の藤堂良忠を失った後、立身出世を諦め「四民の方外」、つまり士農工商という四民という枠の外で生きていくことを決めるんです。しかし、社会の枠組みからは外れながらも最後には俳聖と呼ばれるほどの存在として歴史に名を留める人物になります。
プロフィール
境野勝悟
さかいの・かつのり――昭和7年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、私立栄光学園で18年間教鞭を執る。48年退職。こころの塾「道塾」開設。駒澤大学大学院禅学特殊研究博士課程修了。著書に『日本のこころの教育』『源氏物語』(共に致知出版社)『芭蕉のことば100選』『超訳法華経』(共に三笠書房)など多数。
安田登
やすだ・のぼる――昭和31年千葉県生まれ。高校教師時代に能楽と出合い、ワキ方の重鎮鏑木岑男師の謡に衝撃を受け27歳で入門。現在は、ワキ方の能楽師として国内外を問わず活躍し、能のメソッドを使った作品の創作、演出、出演などを行う。『身体感覚で「論語」を読みなおす。』(新潮文庫)『NHK100分de名著 平家物語』(NHK出版)『野の古典』(紀伊國屋書店)など著書多数。最新刊に『魔法のほね』(亜紀書房)。
編集後記
「昨日の発句は今日の辞世。今日の発句は明日の辞世」。その言葉の如く、俳聖・松尾芭蕉はいまこの瞬間を精いっぱいに生き、数多くの名句を詠みました。境野勝悟さんと安田登さんの対談は、禅と能楽の視点で芭蕉を論じ掘り下げており、他にない独特の趣があります。芭蕉の歩いた道を辿ることで、人生いかに生くべきかを考えさせられます。
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