8 月号ピックアップ記事 /対談
覚悟を決めた時、勝利への扉は開かれる 井上康生(柔道家) 五郎丸 歩(静岡ブルーレヴズ クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO))
全日本男子柔道代表監督として日本男子柔道を立て直し、東京オリンピックでは史上最多5つの金メダル獲得という偉業を成し遂げた井上康生氏。2015年のラグビーワールドカップで世界の強豪・南アフリカを打ち破るなど、日本ラグビー界を牽引し、現役引退後はビジネスマンとして新たな舞台で挑戦を続ける五郎丸 歩氏。柔道とラグビー――共に世界の舞台で戦ってきたお二人に、これまで歩んできた道のりを交え、自らの運命を切り開く要諦を語り合っていただいた。
最後は自分で覚悟を決めて、自分を信じて、自分の道は自分自身で決断していくことが、よりよい充実した人生に繋がっていく
井上康生
柔道家
大学まであらゆる試合で勝ち続けていたのが、大学3年生になる1999年頃から急に勝てなくなり、自分の柔道を見失ってしまった時期がありました。
そして、そこからどう這い上がっていけばいいのか、もがき苦しんでいる矢先の6月、いつも私を温かく包み込んでくれ、応援してくれていた母がくも膜下出血で亡くなるという、人生で一番悲しい出来事、転機を迎えたのです。
偉そうな言い方になるかもしれませんが、私は小学生の頃からずっとチャンピオンとして歩んできました。ただ、それゆえの弱さ、柔道エリートならではの脆さがすごくあったのです。なかなかその弱さに自分では気づけなかった。
それが、母が亡くなったことをきっかけに、自分の弱さ・脆さを感じ始めて、じゃあそこからどうすべきなのかと、いろんな方の意見を聴きながら、一つひとつ工夫を積み重ねていくことで少しずつ調子を取り戻し、1999年10月のバーミンガム世界選手権で優勝、さらには2000年のシドニーオリンピック金メダルという結果に繋がっていった。また翌年の全日本選手権でも優勝し、三冠王者になることができました。
だから、そのどん底から金メダルに至るまでのプロセスに学ぶことはたくさんありましたし、自分の人生にとってものすごく貴重な財産になったと思っています。
覚悟を決めて自分を信じる、自分の信念を持った上でどう生きるか、これがすべてではないかと思います
五郎丸歩
静岡ブルーレヴズ クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)
夢にまで見たワールドカップですから、高揚感はものすごくありました。キャンプの時、その場に立っただけで泣きそうになるくらいに。
それに対してもやはり準備で、自分はおそらく高揚し過ぎて試合前に涙が止まらなくなるだろうから、その時は肩を叩いてくれ、そうすれば多少落ち着くからって、事前にチームメイトに伝えました。
実際、円陣を組んで試合に出ていく時に皆私の肩を叩いてくれたんです。そのおかげで、非常にいい高揚感でプレーに入ることができました。
それから、対戦するチームの同じポジションの選手をそれぞれが徹底して分析しました。特に南アフリカとの対戦が決まってからの2年間は、ずっと彼らの分析をやり続けました。
すると、個々で見ればイメージしていたほどのとてつもない力の差はない、どんなに強い選手でも何か弱みを持っていることが分かったんですよ。それがあったので、相手に対する不安というものも感じなかった。
徹底した準備と努力を重ねていったことで、試合を迎える頃には、「これほど選手・関係者が一つの方向に向いた強い組織はない」「自分たちのチームが勝てなかったら、日本代表は一生ワールドカップで勝利することはできないだろう」というくらい自信がありました。
だから、南アフリカには勝つべくして勝ったというのが私の実感なんですね。ラグビーに魔法はない、一つひとつの積み重ねの上に勝利があるんです。
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勝利の扉を開く〝覚悟〟の力。
選手としての苦境、指導者としての苦境を、どう乗り越えて勝ちを掴んできたのか。
全10ページに及ぶ白熱の対談には、お二人の生き方が表れています。
プロフィール
井上康生
いのうえ・こうせい――昭和53年宮崎県生まれ。父親の影響で5歳から柔道を始める。平成9年東海大学入学。11年バーミンガム世界選手権大会100キロ級優勝を皮切りに、12年シドニーオリンピック柔道100キロ級金メダル、13年全日本選手権大会100キロ級で優勝し、22歳にして3冠王者に輝く。同年東海大学卒業。東海大学大学院体育学研究学科体育学専攻修士課程修了後、綜合警備保障入社。20年現役引退。24年11 月より史上最年少で全日本柔道男子代表監督に就任。28年リオデジャネイロオリンピック、男子7階級でメダル獲得。令和3年東京オリンピックでは史上最多5個の金メダルに導き、9月末で監督を退任。現在はJOCパリ五輪対策プロジェクトリーダー、全日本柔道連盟の強化委員会副委員長などを務める。
五郎丸歩
ごろうまる・あゆむ――昭和61年福岡県生まれ。両親の影響で3歳からラグビーを始める。平成13年佐賀工業高校入学、3年連続で花園に出場。16年佐賀工業高校卒業。同年早稲田大学入学。1年次よりレギュラーとして活躍し、3度の日本一を経験。17年、19歳1か月で日本代表初選出。20年早稲田大学卒業。同年トップリーグ所属のヤマハ発動機ジュビロ入団。23年、24年と2年連続でシーズンの得点王&ベストキッカー受賞。27年ラグビーW杯イングランド大会で強豪・南アフリカを破る中心選手として活躍。28年仏RCトゥーロン所属。29年ヤマハ発動機ジュビロ復帰。令和2年12月現役引退。3年に静岡ブルーレヴズに入社、クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)を務める。
編集後記
表紙を飾っていただいたのは、柔道とラグビー、それぞれの分野を若き情熱で牽引する井上康生さんと五郎丸歩さんです。対談は和気藹々とした雰囲気の中にも、己の心身を厳しく鍛錬し、世界の舞台で闘い、実績を上げてきたお二人ならではの真剣さ、緊張感が漲っていました。スポーツの枠を超えた、あらゆる仕事に通じる極意を学びます。
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