8 月号ピックアップ記事 /二十代をどう生きるか
自分という唯一無二の作品を創り上げよ 養老孟司(解剖学者)
解剖学者にして昆虫収集家、さらには大ベストセラーとなった『バカの壁』などの著作を通し、切れ味鋭い人間観察や社会批評でも知られる養老孟司氏。若き日の体験や活動の土台となるポリシーをお話しいただき、その豊かな才能の源を探った。
人間として未完成な若い人には、これから埋めていくべき余白がたくさんある。冒頭に述べた日常の有り難さを心に刻みつつ、その膨大な余白を自由に埋めて、ぜひとも自分というかけがえのない作品を創り上げてほしい
養老孟司
解剖学者
学びというのは、五感を通して行うことが大事である。
解剖では目を使うし、耳も使うし、手を通じていろんな感触が伝わってくる。スマホでいくら立派な知識を集めても、それが身についていなければ何の役にも立たないが、体を動かし、五感を通じて学んだことは真に自分の身になる。
私の別荘には、いろんな昆虫マニアが訪ねてきては興味深い話を披露してくれる。先日訪れた蝶の専門家は、蝶を採る時には闇雲に網を被せようとしてはいけないという。網や枠がぶつかって蝶を傷つけてしまうことがあるからだ。止まっている蝶の近くを叩き、パッと飛び立ったところでスッと網に入れるのが上手な採り方なのだそうだ。
名人クラスになると、飛んで来る蝶の手前でわざと空振りをする。蝶は驚いて1.5秒ほどフッと舞い上がり、必ず元の位置に戻るので、そこを返す網で捕らえるのだという。
こういうことは、自分で体験してみなければ分からない。何事も体を動かし、五感を駆使して取り組んでいれば悟るものがあり、それがどこかで人生に通じていたりもする。それが発見というものである。
〈写真は東京大学医学部1年生の頃の養老氏〉
プロフィール
養老孟司
ようろう・たけし――昭和12年神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入り、同大学教授に就任。平成7年退官、同大学名誉教授に。幼少期から親しむ昆虫採集と解剖学者としての視点から、自然環境から文明批評まで幅広く論じる。平成元年『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞受賞。著書は他に『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)『バカの壁』(新潮新書)など多数。
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