音楽の天才たちが残した〝魔法〟に魅せられて 室井摩耶子(ピアニスト)

今年(2022)4月に満101歳を迎え、日本最高齢の現役ピアニストとして、いまなお聴衆を魅了してやまない室井摩耶子さん。終戦間際にデビューし瞬く間に地位を確立、後年「世界150人のピアニスト」に選ばれた時代の旗手である。しかしその道中には、名声を捨て、自分が納得する音楽を追求した歩みがあった。いつも自然体で飾らない室井さんを突き動かすものは何なのだろうか。

自分というものがしっかりしていなければ、聴く人に納得してもらえません。逆に、自分が「こうだ!」と納得して弾いた時は大概、えらく感激されるのね

室井摩耶子
ピアニスト

――室井さんのピアノ演奏を拝聴し、胸を打たれました。一つひとつ音が生きているというか……。

〈室井〉
そうですか。どうもありがとうございます。

――音楽を愉しんでいらっしゃることが伝わってきました。いまお部屋に入ってこられた足取りを見ても、101歳とは思えません。

〈室井〉
100歳を超えたからって、別にどうということはないんです。だけど年を取るほど分かることがあって、私も80歳くらいから、新しい発見が増えてきました。

やっぱりベートーヴェンにしろモーツァルトにしろ、彼らはものすごい天才ですから、そのすごさをこっちが理解していないと演奏できないんですよ、本当は。「この音とこの音を合わせれば、こういう綺麗さがあるじゃないか、こういう深さがあるじゃないか」と、彼らは自分の音楽を持っていて、それを使って語っているんです。

――音楽で語っている?

〈室井〉
私はいつも言うんですよ。「音楽は音で書かれた詩であり、小説であり、戯曲である」って。

でも実際は、五線紙に音符が書いてあるだけでしょう。いくら上手でも、それを譜面通りにチャカチャカ弾いていたらそれは音の羅列に過ぎないんです。だから、天才たちが語っていることをこっちが探し出さなきゃいけない。

6歳でピアノを始めて、小学生の頃から作曲の勉強もしてきましたけれど、「あぁ、彼はこんな綺麗な、すごい話をしてたのか。よくこれまで何も知らずに弾いてきたな」って思いますよ。

プロフィール

室井摩耶子

むろい・まやこ――大正10年東京生まれ。昭和16年東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業、研究科に進む。20年プロデビューし、31年ウィーンへ単身渡欧。ベルリン音楽大学に留学後は世界13か国でリサイタルを重ね、ドイツで出版の「世界150人のピアニスト」に紹介される。57年帰国。平成31年文化庁長官賞、令和3年東京都名誉都民に選出。エッセイ集『マヤコ一〇一歳 元気な心とからだを保つコツ』(小学館)が7月28日発売。


編集後記

百寿を超えながら、少女のように音楽を愉しんでいらっしゃる室井摩耶子さん。その飾らない性格、素敵な笑顔は、自分自身の心が求めるピアニストとしての境地を、偽りなく追究してこられた証しのように映りました。
1時間に及ぶ取材の後、弊誌のためにベートーヴェンの名曲「エリーゼのために」を生演奏してくださいました。とろけるような、かつ澄み切った音色に一同感動しきりでした。

2022年7月1日 発行/ 8 月号

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