今北洪川と山岡鉄舟の歩いた道 横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長) 平井正修(臨済宗国泰寺派全生庵住職)

幕末明治を代表する名僧・今北洪川。廃仏毀釈で仏教界が衰退する中、円覚寺管長に迎え入れられ、他に先駆けて一般の人々に禅の門戸を開いた。洪川のもとに参禅した人物は数多く、明治維新の英傑と称される山岡鉄舟もその一人である。剣・禅・書の達人にして江戸城無血開城を牽引し、明治天皇の侍従を務めた。二人の先達と縁の深い横田南嶺氏、平井正修氏が語り合う、二人の邂逅と交流、人格形成に影響を与えた両親や師の教え、心に響く名言、その生き方からいま私たちが学ぶべきこと。

百万の典教、日下の燈

今北洪川

自分の心、本来の心の素晴らしい輝きに気づいて、これに比べればいままで学んできた書物に説かれていることは全部お日様の下で灯している小さな火にすぎない

学びて成らざるの理なし。成らざるは自ら為さざるなり

山岡鉄舟

やってできないことはない。できないのは努力が足りないからだ

横田南嶺
臨済宗円覚寺派管長

横田
 今北洪川と山岡鉄舟、きょうは二人の先達について平井さんと語り合うということで、貴重な機会をいただきました。

平井
 これは『致知』さんでなければまずやらない組み合わせですよね(笑)。私に横田老師の相手が務まるか畏れ多いばかりで……。

横田
 いや、とんでもない。二人の接点といえば、洪川老師のもとに鉄舟居士が参禅したということです。それがいつ頃のことなのか、これまではっきりしなかったのですが、今回調べたところ、明治8(1875)年で間違いないかと思います。時に洪川老師60歳、鉄舟居士40歳。

平井
 ちょうど20歳違う。

横田
 洪川老師は長く厳しい修行を経て大悟した後、岩国(山口県)の永興寺におられました。その時岩国藩主・吉川経幹のために儒学と禅の一致を説いたのが『禅海一瀾』という書物です。その後明治8年、東京に新設されたお坊さんを養成する学校の初代校長に招かれて、本郷の麟祥院に移ります。それとほぼ同時に、円覚寺が管長として迎え入れるんです。

平井正修
臨済宗国泰寺派全生庵住職

横田
 儒学者・佐藤一斎の門下で教部省の役人をしていた奥宮慥斎は、洪川老師の『禅海一瀾』を読んで感動するんですね。それで洪川老師が東京に住されたことを知って、両忘会という禅会を立ち上げた。
 おそらくこれが、一般の方が老師の提唱(説法)を聞いたり坐禅をしたりできるようになった最初じゃないでしょうか。そこへ鉄舟居士も通うようになるわけです。明治8年11月20日付の奥宮慥斎の手紙の中に、「両忘社中も次第に人員加り、山岡銕太郎ナド参社甚愉快ニ候」と書かれています。

平井
 鉄舟先生は明治5年から十年間、明治天皇の侍従をされていますから、ちょうどその頃に邂逅を果たされたわけですね。

横田
 「山岡君は、宰官の身にして余が禅社に入り、古徳の?訛因縁(禅問答の難問)に参得す、将におもえり、希有の大人なりと」
洪川老師の言葉を見ると、鉄舟居士を大変褒めていることが分かります。「希有の大人」、これなんかすごい言葉だなと思います。

プロフィール

横田南嶺

よこた・なんれい――昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『十牛図に学ぶ』など多数。本対談の関連本に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』(いずれも致知出版社)。

平井正修

ひらい・しょうしゅう――昭和42年東京都生まれ。平成2年学習院大学法学部政治学科卒業。静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。13年同道場下山。15年より、山岡鉄舟が明治時代に建立した全生庵の第7世住職を務める。著書に『最後のサムライ山岡鐵舟』(教育評論社)『囚われない練習』(宝島社)『男の禅語』(三笠書房)など多数。本対談の関連本に『活学新書 山岡鉄舟修養訓』(致知出版社)。


編集後記

山岡鉄舟が明治十六年に東京・谷中に建立した全生庵にて、本対談は行われました。山岡鉄舟が参禅した今北洪川の法統を継ぐ円覚寺管長の横田南嶺さんと全生庵住職を務める平井正修さんが、二人の先達の歩いた道を辿りながら、ご自身のあり方を謙虚に見つめ直し、明治の気概に学ばんとする姿勢に、思わずこちらが襟を正されます。

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