現代に伝承すべき近江商人の教え 塚本喜左衛門(ツカキグループ社長)

近江商人の子孫として、「三方よし」の教えを実践し、かつ広め続けているツカキグループ社長の塚本喜左衛門氏。京都の地で150年以上続く専門商社の後継ぎとして、いかに近江商人の教えを学び、事業に活かしてこられたのか。代々伝わる家訓を実践してきた塚本氏の歩みには、現代にも通ずるヒントが詰まっている。

いくらよい教えに出逢っても、実行しない教えには意味がありません

塚本喜左衛門
ツカキグループ社長

塚本
 家訓として大切に受け継がれているのが、『易経』の「積善の家に必ず余慶あり」の言葉です。よいことをすると必ず子孫に幸福が訪れるという訓戒で、この額は複製して会社にも飾っています。
 教育という面では、祖母がその中心でした。幼少期は毎朝早くに布団を引き剥がして起こされ、お経を読む練習から一日がスタートしました。学校から帰ると針仕事をしている祖母の元に膝をついて挨拶をする。そういう厳しい環境で基礎を躾けられました。
 祖母から事ある毎に教えられたのが塚本家にある「長者三代鑑」の掛け軸の教えです。一番下の絵が夫婦共に汗を流して真っ黒になりながら炭俵をつくって働く創業者の絵で、真ん中は仕事をせずに芸事にうつつを抜かす二代目の姿。そうすると三代目で破綻し、一番上に描かれているように赤犬に吠えられる生活を余儀なくされる。この三代の絵を用いて、「いま怠けると将来必ず苦労することになる」と懇々と諭されました。

——含蓄のある教えです。

塚本
 これらの教えなど近江商人の精神を日常生活の中で学んできました。その他、祖母の話で一番心に残っているのが終戦直後の話です。
 私の父は第二次世界大戦時に6年半もの間中国で戦い、九死に一生を得て生還し、1946年に五代目を襲名しました。ところが同年、敗戦による財政難から財産税法が制定され、多額の税率が課せられることになったのです。その額に父は青ざめ、このままでは家業が潰れかねないと案じていると、祖母がこう言ったのです。
「眠れない、血の小便が出ると言うけれど、それは皆同じだ。お金に困窮するなら、生活水準をガラッと落として倹約すればいい。それでも駄目なら、滋賀の自宅や京都の店の敷地を売ったらよろしい」
 これを聞いた父は急に肩の荷が下りたように楽になり、そうこうしているうちにハイパーインフレになって資金難を脱したそうです。

——非常に肝の据わったお祖母様だったのですね。

塚本
 ええ。祖母はこういう言葉をぱっと言える人でしたね。

プロフィール

塚本喜左衛門

つかもと・きざえもん——昭和23年滋賀県生まれ。48年着物などを扱う塚喜商事入社。50年ジュエリー・毛皮を扱うツカキ創業。59年6代目喜左衛門を襲名し、塚喜商事の社長も兼任。


編集後記

近江商人の「三方よし」の教えが商売繁盛の秘訣。そう語るツカキグループ社長・塚本喜左衛門さんの実践の歩みに学びます。

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