こうして自己を磨いてきた 北田典子(ソウルオリンピック 女子柔道銅メダリスト) 三浦伊織(女子プロ野球選手)

女子柔道の創成期に活躍し、ソウルオリンピックで銅メダルを獲得した北田典子さん。11年前に発足した女子プロ野球界で、初の通算500本安打を達成した三浦伊織さん。ジャンルこそ違えど、共にスポーツを通じて心身を磨き高めてきたお二人に、これまでの歩みを振り返りながら、現在の心境を語り合っていただいた。

最後に勝敗を分けるのは、心ではないかと私は思っています

北田典子
ソウルオリンピック 女子柔道銅メダリスト

 講道学舎では、「負けは死を意味する」という暗黙の了解があるほど勝利に対する強いこだわりを選手全員が持っていました。といっても、敗北したこと自体で怒られることはありませんでした。要は、「負け方」なんです。勝っても勝ち方が悪ければ怒られましたし、負けても勇気をもって一歩踏み込んだために負けたのであれば、逆に褒められました。
 ですから、技術的なこと以上に、「なぜあの場面で攻めに行かなかったのか」といった精神面、人間育成の根幹である人間力を教え込まれました。

 話は少し逸れますが、古賀稔彦が金メダルを獲得した1992年のバルセロナ五輪の時、古賀は試合10日前に靭帯を痛めて全治一か月の怪我を負ってしまいました。おそらく、世間には「古賀はもうメダルを取れない」という諦めの雰囲気が漂っていたと思います。しかし、講道学舎の中では、「これで条件は揃った。古賀は勝てる」と皆が確信していたんです。
 というのも、オリンピックの舞台はどんなに実力があっても、0.1パーセントでも油断があれば勝てない世界です。古賀の場合、技術面はこれまで培ってきたものがありますから、最後の勝敗を分けるのは心です。怪我をしたことによって緊張感が研ぎ澄まされますから、「これで古賀は勝てる」とスタッフたちは確信しました。試合前に祖父が古賀に掛けたのは、「人間力で闘いなさい」のひと言だけでした。
 そして古賀も古賀ですごかったのは、「自分は足が一本ないくらいで負けるような練習をしていない」と腹が据わったこと。見事、判定勝ちで金メダルを手にすることができました。

練習段階で、いかに試合と同じように準備をできるか、練習を試合と思って挑めるかが大事

三浦伊織
女子プロ野球選手

 私は1年目の時、打率がリーグ内2位で、2年目は3位でした。首位打者を受賞していたのは東京ヤクルトスワローズの川端慎吾選手の妹・川端友紀選手で、兄妹ということもあり、メディアからも注目を浴びていたんです。私はせっかくやるなら1位になりたかったので、どうすれば川端選手を越えられるだろうかと常に考えていました。
 その時に監督から、「バッティングというのは、3日続けなければうまくならないけれど、1日でもやらなければ、一瞬で元に戻ってしまう」と教えられました。それからはとにかく休まず練習することを心掛け、全体練習がない日でも、自主練習をするようになりました。やっぱり、皆が休んでいる時にちょっとでも練習しておくと、気持ちの面で全然違ってくるんですね。そうして自分で自分を奮い立たせながら、スキルを磨き、心も鍛えていきました。

プロフィール

北田典子

きただ・のりこ─昭和41年東京都生まれ。柔道私塾「講道学舎」を立ち上げた横地治男の孫。中学1年生の時から柔道を始め、62年日本体育大学3年生の時に世界選手権で3位入賞。翌年ソウルオリンピックで銅メダルを獲得。24歳で現役引退後は、コーチとして当時無名選手であった恵本裕子をスカウトし、見事日本女子柔道史上初の金メダルに導く。19年間講道学舎で指導した後、平成28年からは日本大学教授を務める。

三浦伊織

みうら・いおり─平成4年愛知県生まれ。21年日本女子プロ野球機構による第1回合同トライアウトに合格し、京都アストドリームス(現・京都フローラ)へ加入決定。22年椙山女学園卒業。26年打率5割を超え、首位打者に。令和元年女子プロ野球リーグ初の通算500本安打を達成。〝女イチロー〟の異名をとる。


編集後記

ひと昔前は男性の競技とのイメージが強かった柔道と野球。いまでは女性競技人口も増え、世界を舞台に幾つものメダルを獲得しています。それぞれのスポーツの創成期に携わった女子柔道オリンピックメダリストの北田典子さんと現役女子プロ野球選手の三浦伊織さんに、自己を磨き高めてきた歩みを語り合っていただきました。

2020年8月1日 発行/ 9 月号

特集 人間を磨く

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