存在価値 濱口道雄(ヤマサ醤油会長)

各界を代表する企業、機関、団体を牽引してきたリーダーに、人生観・仕事観を形成した体験や、貫いてきた信条を披歴いただく連載「私の座右銘」。今回ご登場いただいたのは食卓でもお馴染み、約380年の歴史をもつヤマサ醤油の濱口道雄会長です。若くして同社に入り、35年近くにわたり社長を務める中で「昆布つゆ」や「鮮度の一滴」などのヒット商品を世に送り出してきた背後にある伝統の〝リレーランナー〟としての思い、老舗を率いる者の信条とは。
【写真=初代・濱口儀兵衛の出身地でもある和歌山県広川町(当時:広村)を一望した絵の前で】

事業の成否をひと言で表せば、社会的な存在価値を維持できるかどうかでしょう。企業が存続できないのは、ひとえに存在価値がなくなったからなのです

濱口道雄
ヤマサ醤油会長

1645年、紀州出身の初代・濱口儀兵衛が現在の千葉県銚子の地で創業した当社の歴史は、来年で380年を刻みます。

江戸前の寿司、蒲焼、天ぷら……。日本の食文化が大きく花開いた江戸で、香り高く色の澄んだ私共の濃口醤油は生魚の臭みを和らげ、火が通るほどに香ばしさを増すとあって、いつからか食卓になくてはならない存在になりました。その風味の基となる独自の麹菌を守ってきた当社の醤油は現在も東京の寿司店の約7割で代々ご愛用いただいており、前期は年商約600億円を計上しました。

創業家十二代目として生まれた私は、大学を出ると生命保険会社勤務を経て1968年、25歳の時にヤマサ醤油に入社しました。その頃は高度成長も相俟って醤油の需要は伸び続けており、いかに設備を増やして増産を続けるかに経営の力点が置かれていました。

一方、醤油に加えて少しずつですがめんつゆをはじめ「醤油加工品」などの開発、販売にも取り掛かっている時期でもありました。
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(続きは本誌をご覧ください)

長い歴史の中で常に革新を続けるヤマサ醤油。濱口会長の歩みに、社会に求められ、繁栄する企業とは何かを教えられます。

プロフィール

濱口道雄

はまぐち・みちお――昭和18年千葉県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東邦生命保険相互会社に入社。43年ヤマサ醤油入社。取締役、常務取締役を経て58年代表取締役社長に就任。日本醤油協会会長など業界団体の要職を歴任。平成29年より代表取締役会長。濱口生化学振興財団代表理事。


編集後記

スラリとした長身に穏やかな語り口。伝統を一身に背負い、競争の激しい醤油、調味料の市場で勝ち残ってきた濱口会長の語る仕事観、経営観の節々にハッとさせられる表現や言葉がありました。老舗のリーダーは見えないものを見、常に革新を起こしているからこそ社を導いていけるのでしょう。

2024年6月1日 発行/ 7 月号

特集 師資相承

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